2017年3月17日掲載 − HOME − エネルギー選択宣言一覧 − 1章記事
発電コストの実態

前項で、電力の取引価格は限界費用で決まると書きました。これは、主に燃料費、メンテナンス費で構成されます。これに初期投資額(建設費)を足すと、電力会社側に発生するコストになります。日本で原発が安いといわれる根拠は、この電力会社にだけ発生するコストが原発のコストとされているからです。再生可能エネルギーについては、この限界費用はほぼゼロだといいました。さらに、建設費も原発に比べると格段に安い。原発の減価償却に30年近くかかるのに対し、再生可能エネルギーの発電施設は10年ほどで減価償却されます。どう考えても、再生可能エネルギーのほうが安いとしかいいようがありません。


しかし、なぜ日本では原発は安くて、再生可能エネルギーは高いといわれるのでしょうか。


それは、コストを比較する基盤が異なるからです。日本政府は再生可能エネルギーが高い根拠として、研究開発費や固定価格買い取り制度(FIT)、送電網の整備費などを挙げます。でも、これらのコストは発電によって電力会社側に直接発生するコストではありません。原発では電力会社に直接発生するコストだけを計算しながら、再生可能エネルギーにはその他のコストも加算して、高いといっています。比較する基盤が違うのですから、再生可能エネルギーのほうが高くなって当然です。こういう比較は、自分たちの都合のいいように議論するための詭弁にすぎません。


原子力発電には、初期投資額(建設費)と限界費用のほか、廃炉や最終処分などのバックエンド(後処理)のコストが発生します。日本では、再処理を行なうことが前提となっていますので、再処理のコストも発生します。バックエンドに必要なコストは、今後何万年もの間発生します。原子力発電が継続されればされるほど、それだけコスト増になります。さらに、主に原子力発電所の建設を促進するための電源三法交付金も原発のコストに加算しなければなりません。東京電力福島第一原発の事故による被害も、原発のコストとなるのはいうまでもありません。ただ、これらのコストは市民が共同で負担しています。電気料金に加算される場合もあれば、社会コストとして国の予算、つまり税収から支払われるものがあります。


それに対して再生可能エネルギーの場合、FITの負担や研究開発費は再生可能エネルギーを育てるための初期段階の負担です。これらのコストも共同で負担しています。再生可能エネルギーの普及が拡大するにつれて製造コストが下がるほか、学習効果も出てきますので、その負担はいずれなくなります。


発電コストを比較する場合、この共同負担分も含めてすべてのコストを比較しなければなりません。ぼくには、初期投資額、限界費用、共同負担分、どれを取っても再生可能エネルギーのほうが安いとしか思えないのですが、ぼくの錯覚でしょうか。日本では、原発のコストがカムフラージュされているとしか思えません。


(2017年3月17日掲載)

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