2017年3月21日掲載 − HOME − エネルギー選択宣言一覧 − 2章記事
日本の電力供給システムは遅れている

ドイツの大手送電事業者の一つテーネット(TenneT)社の送電中央監視室を取材したことがあります。何人ものオペレータが、目の前に並ぶたくさんのモニターを監視していました。一番正面の壁の上には、周波数を示す表示計があります。50ヘルツ前後を微妙に変化しています。周波数がちょっとでも大きな誤差を示すと、敏感な産業機械は止まってしまいます。経済に大きな損害が発生します。そのため、周波数が大きく変化しないように送電網を管理しなければなりません。


監視室周波数
テーネット社の送電中央監視室。写真右上に周波数を示す表示計が見える

電力の周波数を安定させるためには、送電網を通る電力量の均衡を保たなければなりません。電力量が多すぎても、少なくすぎても、周波数が変化します。送電中央監視室では、それを監視、制御して電力の安定供給を維持します。


取材に当っては、絶対にオペレータと話をしてはならないとプレス担当の女性から厳しくいわれていました。しかし実際に監視室に入ってみると、静かで落ち着いた感じがします。いわれていたほどの緊迫案がありません。一番正面の大きなモニターに表示されている送電網の状態を見ても、どこかで送電状態が不安定だという感じもしません。オペレータの一人に「グーテンターク(こんにちは)」と挨拶すると、オペレータがいろいろと気軽に説明してくれました。


ぼくが特に関心を持っていたのは、発電量の変動が大きい再生可能エネルギーの普及で送電網の管理がどう変わったかでした。オペレータは「(送電網の管理、制御が)とても緊迫したものになった」といいます。「でも、やりがいがあって楽しい」と、笑って答えてくれました。


再生可能エネルギーが増えて問題になったのは、発電量に変動があることばかりではありません。その変動のスピードが速いことがとても大きな問題です。風がなくなると、風力発電ではすぐに発電できなくなります。逆も同じで、風が吹き出すと急に発電量が増えます。太陽光発電でも、太陽光の有無によって早いスピードで発電量が変化します。それが、従来の火力発電や原子力発電と大きく違うところです。オペレータとして、変動のスピードに対応しなければなりません。


監視室風力
風力発電量予測画面を見ながら説明するオペレータ

オペレータがモニターで参照するのが、風力発電と太陽光発電の発電量予測システムと電力消費量予測システムです。風力発電と太陽光発電の発電量予測システムは気象情報とリンクして、たとえば1日、1時間、30分、15分後までの発電量を事前予測します。さらに消費量予測システムで、電力消費地の過去のデータから時間帯毎の消費量を予測させます。オペレータは送電網の状態と、発電量と消費量の予測データを見ながら送電網が不安定にならないように制御します。


送電網を安定させるため、必要に応じて監視室から風力発電施設や太陽光発電施設を強制的に系統から切り離して解列することができます。発電事業者に事前通知することもなく、通信機能を使って遠隔操作します。


それに対し日本では、解列するのに電話などで事前通知して発電事業者に発電施設を系統から切り離してもらっていると聞きました。情報通信技術の発達しているはずの日本としては、随分とのんびりした話です。


電力供給システムのスピード化に伴い、発電量予測システムや消費量予測システムの開発ばかりでなく、発電量の変動の速さに対応できる送電網オペレータの育成も必要になっています。ドイツ南東部の町コットブスで、そのための職業訓練施設を取材したことがあります。とても近代的な施設で、人材育成にもたくさんのコストがかけられていることがわかります。この点でも、日本の遅れを感じざるを得ません。


(2017年3月21日掲載)

前の項へ←←      →→次の項へ        →目次へ
この記事をシェア、ブックマークする
このページのトップへ