2017年3月28日更新 − HOME − エネルギー選択宣言一覧 − 2章記事
発送電分離は必要か、容量市場は必要か

ドイツでは、再生可能エネルギーの普及とともに電力供給構造が大きく変化しています。送電網の整備が早急に取り組まなければならない課題です。そのために、たいへんな時間と労力をかけて調整作業を行なっています。すでに述べたように、その調整作業が必要になった一つの大きな要因が、発送電分離でした。


発送電分離については、これから実施される予定の日本においても盛んに議論されています。ドイツでも、その賛否がいろいろ議論されてきました。でも発送電分離は、本当に必要だったのでしょうか。


ドイツの5大経済研究所の一つであるベルリン経済研究所(DIW)でエネルギー政策問題を担当するクラウディア・ケンペルト教授は、発送電分離は特に必要ではなかったといいます。「発送電分離がなくても、新規参入業者を公平に扱うための規則造りと監視がしっかりしておればよかった。それで問題なかったはずだ」と指摘します。教授は、「それでも、再生可能エネルギーには不利にならなかっただろう。発送電分離は再生可能エネルギーの促進になくてはならないものではない」と主張します。


教授にとって、再生可能エネルギーの普及に必要不可欠なのが、固定価格買い取り制度(FIT)です。電力市場の自由化についても、「それが特に、再生可能エネルギーの普及を促進するわけではない」ともいいました。「一旦発送電分離を実施してしまうと、予期しなかった大きな問題が発生する。でも、もう後戻りはできない。そのほうが問題だ」と、教授は指摘します。


ドイツでは、再生可能エネルギーの拡大と発送電分離を伴う自由化で、電力にお金を支払うだけの市場では電力の安定供給が成り立たないこともわかってきました。安定供給を維持するため、発電所を常時稼働させるのではなく、リザーブとしてキープしておく必要性が高まっています。リザーブ発電所となるのは、主にガス火力発電所です。そのリザーブに対して、誰がお金を出すのか。発電しないので、電力にだけお金を出す既存市場では、リザーブ発電所はやっていけません。リザーブ発電所を維持するため、発電容量のための市場化についても議論が行なわれていました。


この問題についても教授は、容量市場はエネルギー転換に向けた過渡的なものなので、容量市場は必要ないとの立場です。ただ、何らかの供給力を確保してそのコストを共同負担するメカニズムが必要です。将来必要なくなればいつでも柔軟に消滅させることができるように、教授は戦略的にリザーブとして残す発電所を決め、その負担を共同で負う「戦略的リザーブ発電」を提唱しました。ドイツ政府も2015年、容量市場ではなく、戦略的リザーブ発電とする方針を決定します。


ぼく自身は、いずれ容量市場が必要になると思っています。電力をエネルギーとして貯蔵する技術が普及しても、安定供給を維持するには発電施設の容量に十分なリザーブが必要です。そのリザーブを保持するため、貯蔵施設も含めて発電施設の維持コストを負担する容量市場が必要になってくるのではないかと予想しています。


また、再生可能エネルギーには限界費用が発生しないので、電力の取引価格がいずれゼロになるといっても過言ではありません。それでは、発電で利益を上げることができません。電力の固定価格買い取り制度(FIT)がない限り、再生可能エネルギーの発電施設に投資する魅力が失われます。FIT制度は再生可能エネルギーを育てるものであって、永遠に依存するものではありません。それに代わるメカニズムが必要です。容量市場があれば、再生可能エネルギーの負担を共同で負担する新しいメカニズムが生まれます。


日本では、電力大手がたくさんのリザーブ発電所を持っています。だから、原発がすべて止まっても停電しなかったのです。電力市場の全面自由化で価格競争が激しくなると、その負担は新しい電気料金体系ではもう回収できません。発生するコストをすべて電気料金でカバーする総括原価方式は、小売り自由化とともに終わってしまいました。


日本で原発が再稼働するにしたがい、それまで原発の代わりに稼働していたリザーブ発電所が電力大手にとって大きなコスト負担になるのが目に見えています。


(2017年3月20日掲載)

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