2017年3月25日掲載 − HOME − エネルギー選択宣言一覧 − 4章記事
ガスはどこからくるのか

ガスは通常、化石燃料と思われています。ガスを再生可能エネルギー化するとは、どういうことなのでしょうか。日本では、再生可能エネルギーからガスをつくるのは無理だとされています。


実は、ぼくたちの身の回りにガスをつくる「資源」がたくさんあります。家畜の糞尿、農産物廃棄物、食品の残さや残飯、生ゴミ、下水処理場に沈殿した汚土(たとえば人の糞尿)などです。これらは、有機ゴミといわれます。


ドイツではこれまで、家庭から排出されるゴミは堆積処分されていました。たとえば石炭の露天掘り跡が、その堆積場になっていました。そこでは、ゴミが発酵してメタンガスが出ます。そのガスを回収します。下水処理場では、汚土(スラジ)が沈殿して下に貯まります。汚土からは、人間の糞が発酵してメタンガスが出ます。人の糞がエネルギー源になるということです。たとえばドイツ南西部のシュツットガルトでは、下水処理場で発生するメタンガスを回収して大型燃料電池の燃料として使い、電力と熱を供給しています。


燃料電池では、水の電気分解を逆にして水素と酸素を結合させます。水素ないし水素が含まれているメタンガスを燃料として、その化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換します。燃料電池は、自動車の動力源、住宅や産業用のコジェネレーションシステム(電力と熱を供給)として期待されています。ただこれまで、燃料電池は期待されたほどには普及していません。


発酵槽
バイオガス発酵槽。上の部分にガスが貯まる

家畜の糞尿は、その他の生物資源や有機ゴミと一緒にバイオガス発電施設の発酵槽に入れ、バイオガスを発生させます。そのガスを回収して、ガスエンジンで発電します。これが、バイオガス発電です。発酵槽ののぞき窓から中をのぞくと、表面に大きな泡ができては破れるのが見えます。発酵して、ガスが発生しているのです。バイオガス発電は主に、電力需要が最大となるピーク電力を供給するために使います。発電施設が小規模で、すぐに発電を開始させたり、停止させたりできるので、電力の需要の変化に素早く対応できます。またピーク電力は高く取引されるので、コストの高いバイオガス発電でも価格競争には負けません。


メタンガス化装置
バイオガスに二酸化炭素を加えてメタン濃度を上げるメタンガス化装置

バイオガス発電施設では、常に発電されているとは限りません。発電しない時は、発酵槽上部にガスを貯めます。ドイツ南東部テューリンゲン州で取材した施設では、発酵槽上部をより大きくしてガスの貯蔵量を増やしていました。そのプラントでは、バイオガスを燃やすことによって排出される二酸化炭素も回収して貯蔵していました。電力需要が少なくて発電しない時は、発酵槽のバイオガスに、回収した二酸化炭素を結合させてメタン濃度を高くし、近郊の町の天然ガス網に再生ガスを供給していました。


ドイツでは、バイオガス発電がとても盛んに行なわれています。特に、農業の副収入源として大きな期待が持たれ、農業の救世主ともなっています。ドイツ東部では、地元の農業協同組合が中心となってバイオガス発電が行なわれています。旧東ドイツ時代の農業協同組合の伝統があるからです。


農民はさらに、単独であるいは共同で牛舎や倉庫などの屋根にソーラーパネルを設置して発電し、電力を売って副収入を得ています。


ドイツではバイオガス発電の技術開発も活発で、コスト高のバイオガス発電の効率を上げて、コストを削減する努力が行なわれています。そのポイントの一つが、家畜の糞尿と一緒に発酵槽に入れる生物資源です。


生ゴミなども、発酵原料として使用することができます。ただその場合は、生ゴミを細かく破砕して原料となる素材の種類毎に分別するほか、不純物を除去するなどの事前処理が必要になります。それでは、コスト高となって効率がよくありません。そのため、農業で行なわれるバイオガス発電においては、使用される生物資源が限定されてきました。


主に使われる生物資源は、トウモロコシの茎や葉を細かく破砕して乳酸発酵させたサイレージ、エネルギー源とすることを目的に栽培されるエネルギー植物のサイレージなどです。エネルギー植物に関しては、生育期間を短縮したり、発酵機能を上げてより効率を上げるための品種改良も行なわれています。食糧と競合しないように、エネルギー植物は普段使われない休耕地で栽培されます。


発酵槽からでる液体(消化液)や残さは、後で肥料として再利用されます。


なお、バイオガス発電に使われる家畜の糞は、大量生産を目的に工業化された酪農業から排出されます。グリーンピース・エナジー社のように農業の工業化に反対するグリーン電力小売事業者は、バイオガス発電によって発電された電力を拒否しています。


(2017年3月25日掲載)

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