ジャーマンポテト
日本からきたお客さんをドイツ料理のレストランに連れていった時、「ジャーマンポテトを食べたい」といわれました。「ジャーマンポテト」と聞いても、何のことかわかりません。ぼくには、英語でいう「ドイツのジャガイモ」のことでしかありません。そんな料理は、ドイツにはありません。ドイツ語で「ドイチェ・カルトーフェルン(ドイツのジャガイモ)」をくださいとレストランで注文しても、この日本人はいったい何をいっているのかと思われるのが落ちです。
ジャーマンポテトを食べたいといった本人も、困っていました。
日本では、「ジャーマンポテト」はドイツの代表的な家庭料理となっているようなのです。ぼくは、まったく知りませんでした。ドイツの家庭料理といいながらも、英語で固有名詞化するというのも変な話です。そのおかしさに、なぜ気づかないのか。ドイツのものであることが、何か無視されているように感じます。
よく調べてみると、ドイツの「ブラートカアトフェルン(Bratkartoffeln)」が日本語の「ジャーマンポテト」のことなのだとわかりました。ぼくの勉強不足でした。直訳すると、「油で炒めたジャガイモ」ということです。ゆでたジャガイモを刻んで、ベーコンやネギなどの野菜と一緒に炒めます。ドイツでは普通、肉料理などの添え物にします。それだけでは、メニューには載っていません。
「フランクフルト・ソーセージ」を食べたい、といわれた時も困りました。ぼくの暮らしているベルリンにはないからです。ベルリンのレストランのメニューには、入っていません。フランクフルト・ソーセージは、「フランクフルト特産の」ソーセージということ。ぼくには、「フランフルトで食べてください」というしかありませんでした。
ベルリンで食べることのできるソーゼージは、ベルリン名物の「カレーソーセージ」の他、ヴィーン特産のソーセージ、ニュンベルク特産のソーセージ、それにテューリンゲン地方特産のソーセージくらいしかありません。
ヴィーン特産のソーセージというのが、日本でいう「ウィンナーソーセージ」のこと。本物は20センチメートルほどの長いソーセージで、ゆでて食べるソーセージです。日本と違って、炒めて食べることはありません。
実は、このヴィーンのソーセージはフランクフルトのソーセージに由来しています。フランクフルトのソーセージは中世からあり、豚肉だけで製造されていました。ソーセージに牛肉を使うのは禁止されていたからです。フランクルトからヴィーンに移住した肉屋が1805年にそれに牛肉も入れて販売したのがヴィーンのソーセージです。日本でウィンナーソーセージというようになったのは、それが米国経由できたからだとも推定されています。
日本語で固有名詞になっているものが、現地ではまったく違う記号で表現されていたり、現地の本物とはまったく別物であることもあります。食に関しても、現地には現地の慣用があることを知ってほしいと思います。
ちなみにベルリン名物の「カレーソーセージ」は、焼いたソーセージ(あるいは、ゆでたソーセージ)を食べごろの大きさに切って、その上にたくさんのケチャップをかけ、カレー粉を上からかけてできあがり。
ぼくには、ソーゼージがケチャップの中を泳いでいるように見えるのですが、カレー粉がかかっているから「カレーソーセージ」と呼びます。
(2017年8月19日、まさお)
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