民主主義の不具合

 衆議院選挙は、与党自民党と公明党が3分の2以上の議席を獲得し、大勝した。今回もそうだが、日本の国政選挙をドイツから見る度に、いつも納得できないことがある。

 それは、得票率が40%も超えない政党がなぜこうもたくさんの議席を獲得することができるのかということだ。選挙は民主主義制度の元で行なわれているとはいえ、この状況は異常だとしかいいようがない。

 それは、日本の選挙制度では直接候補者を選ぶ小選挙区と、政党を選ぶ比例区の選挙がまったく別々に行なわれるからだ。だから、議席数の多い小選挙区で勝てば、たくさんの議席を獲得できる。小選挙区での得票率がべらぼーに高いわけでもない。それでも小選挙区では、たとえ一票差で勝とうが勝ちは勝ち。負けた候補者の票は、選挙結果に反映されず、意味を失ってしまう。

 この状態は、民主主義とは到底いうことができない。

 ドイツの選挙でも、直接候補者を選ぶ小選挙区と比例選挙区がある。でも、議席は比例区で獲得した政党の得票率をベースに割り振られる。

 たとえば、A党が比例区(通常は州毎に)で獲得できる議席は、A党の比例区での得票率から16議席だとしよう。A党が小選挙区で13議席を獲得すれば、比例候補3人が当選となる。だが小選挙区で16議席獲得すると、比例候補は誰も当選できない。

 ただA党が小選挙区で20議席獲得したとしよう。そうなると、比例区の得票結果よりも4議席多くなる。その場合その4議席も認められるが、その超過分が公平に各政党の得票率に応じて議席が割り振られるようにドイツ全体で調整される。なのでドイツでは、小選挙区に強い政党が一人勝ちすることはない。

 そのため、国会の議席数は選挙結果に応じて変動する。たとえば9月に行なわれた連邦議会選挙では、議席数が定数より100議席余り増えた。

 こうして小選挙区と比例区をリンクさせれば、小選挙区で一票の格差が大きくなる問題も緩和できる。そのため、ドイツの選挙法は一票の格差を1.25倍までとし、1.3倍以上になると自動的に区割りを変更しなければならなくなっている。

 その状況を常に監視できるように、ドイツの国政選挙の選挙管理委員長は統計庁の長官が兼務している。

 それでもドイツでは、小選挙区で超過議席を獲得した政党が有利ならないように、憲法裁判所はこれまで何度となく、選挙法の改正を求めてきた。選挙で投じられる一票、一票をできるだけ平等に取り扱うだめだ。そうしないと、憲法違反となる。

 日本でも、一票の格差の問題で裁判所が選挙を無効だとはしないまでも、違憲状態だと判断してきた。ということは、国会も違憲状態だったのだ。その状態で、国会では安保法制や共謀法などの重要法案が強行採決されてきた。

 さらに、日本では投票率が低い。50%少し超える程度だ。ということは、与党が議席の3分の2を確保していても、有権者全体で見ると、20%を超えるか超えないかの民意の信託しか得ていないことになる。

 これでは、国会で民意を反映することはできない。こういう状態で国会を運用するなら、国の重要法案を採決するのを諦めるか、与野党合意の元で法案を通過させるしかない。憲法改正などは、なにをかいわんやだ。

 それが、民主主義を守るモラルだ。それができない政治家や政党には、民主主義の元で政治を行なう資格がない。

 なお、ドイツの選挙制度がある政党や政治家だけ台頭しないようになっているのは、過去においてナチスが民主主義制度の元で台頭してきたからだ。過去の教訓から学んだ結果だ。さらに、国会は社会が多様であることを反映した多様な意見のあるところでなければならないからだ。

 民主主義といえど、完璧ではない。それをどう使い、どう運用するのか。その欠点を補えるのは、政治家や政党ばかりでなく、それを監視するすべての市民の問題だ。そのためにも、選挙に棄権すべきではない。

 ちなみに、9月にドイツで行なわれた連邦議会選挙の投票率は、76.2%だった。

(2017年10月24日、まさお)

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