2021年9月29日掲載 − HOME − 小さな革命一覧 − 記事
ドイツの新政権は西ドイツ政権

ドイツでは(2021年)9月26日、ドイツの国政総選挙となる連邦議会(下院)選挙の投票が行われた。


メルケル首相は事前に、退任を表明。16年続いたメルケル政権に終止符が打たれた。国政選挙において現役首相が首相候補として立候補しないのは、戦後はじめてのことだった。


開票の結果、メルケル首相が率いた同盟(キリスト教民主同盟(CDU)とドイツ南部バイエルン州だけの姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)の連合。以下CDU/CSU)が大敗。これまでCDU/CSUと連立していた社民党(SPD)が得票率25.7%で、わずかの差で第一党となった。


選挙の結果、新政権では以下の連立が考えられる。
・社民党(赤)と緑の党(緑)、自民党(FDP)(黄)の連立(色の組み合わせから「信号機連立」といわれる)
・社民党とCDU/CSUの大連立
・CDU/CSU(黒)と緑の党(緑)、自民党(黄)の連立(色の組み合わせから「ジャマイカ連立」といわれる)


これまでのメルケル政権16年の間、大連立政権が12年も続いた。そのため、社民党もCDU/CSUも再び大連立することを望んでいない。実際には今のところ、信号機連立とジャマイカ連立しか連立の可能性はない。


問題は、東西ドイツで投票結果がかなり異なったことだ。


東西ドイツでほぼ均等に支持を得たのは、第一党となった社民党だけ。緑の党と自民党は以前として、西ドイツの政党のままとなっている。さらに東部ドイツにおける極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭で、CDUは東部ドイツ全体で得票率が10%後半に留まった。東部ドイツでは、社民党、AfDに次いで第三党だ。


選挙の結果、信号機連立となろうが、ジャマイカ連立になろうが、西ドイツ政党の緑の党と自民党が政権に入る。そのため新政権は、東部ドイツにおいて過半数を得て選出されない事態になる。ジャマイカ連立に至っては、東部ドイツにおいて3人に1人しか投票していない。


しかし、ドイツ政界もメディア界も、さらに政治学者たちも、この問題に気づいておらず、まったく問題にしていない。ドイツ全体での得票率でしか、選挙結果を見ていないからだ。


ただ東ドイツ出身のメルケル首相が、政界から姿を消す。その分、東西ドイツの政治のバランスをどう取るのか。この問題がとても重要になるはずだ。しかし今、誰もそれに敏感でないのは情けない。


CDU/CSUと自民党に至っては、ジャマイカ連立を優先させる。CDUのラシェット首相候補は、ジャマイカ連立こそがドイツの「将来をになう政権」だと主張する。CDU/CSUの新しい議員団の団長に再選されたブリンクハウス氏も、「ジャマイカ連立こそ、分断された社会を橋渡しできる」と主張する。


政治もメディアも学問も、西ドイツのことしか頭にないかのようだ。東部ドイツが今、統一ドイツに属していることを忘れてしまったように聞こえる。東部ドイツで30%余りの票しか得ていない政権に、どうして「将来」や「橋渡し」が可能なのだろうか。


ぼくには、その論理が理解できない。


東西ドイツ統一後、30年以上も経った。しかし今も、東西ドイツはまだ統一されていない。その現実は、誰にも明らかだ。それでいて選挙結果をしっかり把握しないで、西ドイツの舞台だけで連立議論を進める政治家、ジャーナリスト、学者たち。


東西ドイツの格差をなくしていくことを考えると、最低限東西ドイツで均等に得票した社民党を中心とした政権とならない限り、統一ドイツにおいて民主主義は足元で激しく揺れ動く。危ういものとなる。


東部ドイツ市民は、この事態をどう思うだろうか。


「こりゃ、西ドイツ市民が選んだ政権。ぼくたちのことは無視されたね。(東ドイツ元首)ホーネッカーのいっていたことは正しかったよ。ここには、民主主義なんてないよなあ」といっているのが、聞こえそうだ。


(2021年9月29日)
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関連資料:
ドイツ政府の2020年東西ドイツ統一状況報告書(ドイツ語)
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