2018年7月掲載 − 小さな革命 − J・Oのベルリン便り
アッハソー、1999年7月

ベルリンでは今、寿司ブームが起こっている。日本食レストランや寿司バーはもちろんのこと、カフェの中の寿司コーナーなど、思いがけないところでも寿司が食べれる。特に、寿司バーが大流行だ。こうした寿司バーは、ロシア人や韓国人などアジア系の人が経営している場合が多い。


どのお店にも日本人の板前さんがいるわけではない。そのため、たいへん『奇妙』な寿司に遭遇することもある。あるところでは、しゃりに全く酢が入ってなかったことがあるが、往々にしてお酢の加減が少な目だ。


ある晩、日朝料理と書いてあるので興味本位で入ってみたら、ちらし寿司が非常に安いので注文した。寿司めしの上に鮭と白身の魚の2種類しかのっていないのはまあ許せるとしても、醤油皿だと思われるものに真っ赤なタレのようなものがのって出てきた。給仕の女性に「これは?」と聞いたところが、「ソースですよ」と自信たっぷりな返事。えっ、これはどう見ても小生にはコチジャンにしか見えないのだが...。恐る恐る箸の先につけてなめてみる。案の定、コチジャンだ。小生、コチジャンは大好きだが、さすがにコチジャンで寿司を食べる気にはなれなかった。


回転寿司も登場した。ベルリンの新都市、ポツダム広場の一角にある。お店は非常にきれいで、内装デザインはモダンな感じ。日本と違うのは、カウンターの中に板前さんがいないのと、衛生上の問題から寿司ののった皿に透明な深い鉢がかぶせてあること。皿の色によって値段が違うのとか、皿の数で勘定するのは日本と同じだ。ここでは、機械で寿司を『握って』いるとかで、カウンターの一端にある覗き窓のようなところから、男性がお皿に寿司をのせているのが見える。ただ素手ではなく、ビニール手袋をしていたから、これも日本と違うところか。ねたはまあまあだが、まぐろは着色したもののようだった。


寿司ブームといっても、日本人客目当てでは商売にならない。客層の中心はドイツ人とロシア人で、韓国人なども結構見かける。数年前まではそうでもなかったが、みんな本当に箸が上手に使えるようになった。箸の使い方では、日本人ともうそれほど変わらない人もいる。


しかし醤油皿を見ると、日本人かそうでないか、一目瞭然なのだ。日本人でないと、醤油皿がごはん粒で一杯になっている場合が多いのだ。それは、醤油をねたにつけないで、しゃりにつけるからだ。「つける」というよりは、しゃりを醤油に「どっぷり浸す」といったほうが正しい。ねたに醤油をつけて食べるほうがいいよ、と教えても効果がない。それでは味が薄すぎるらしく、しゃりにどっぷりとお醤油をつけないと、味がしないらしい。だから、醤油皿にはごはん粒がたくさん崩れ落ちてしまうのだ。


行き着けの日本食レストランの板前さんによると、日本人客とそうでない客で握り加減を換えなければならないという。日本人以外のお客さんにはかなり硬く握っておかないと、しゃりがぐしゃぐしゃに崩れてしまうからだ。そのため、寿司の注文が多い晩は、握るほうの手がむくんで握力がなくなってしまうほどだというからたいへんな仕事だ。


ねたの魚は、フランスから入ってくるようだ。一般の魚屋さんでは、一部を除くと、刺身にできるようないい魚は手に入らない。しかし魚問屋のようなところにいけば、個人でも買え、結構いい魚がある。ただし、kg単位で買わなければならない。甘えびなどは、へたにドイツ語でいわないで「アマエビ」といったほうが通じるからおもしろい。(J・O)


(1999年7月1日)
前の項へ←←      →→次の項へ        →記事一覧
このページのトップへ