2018年7月掲載 − 小さな革命 − J・Oのベルリン便り
アッハソー、2000年8月

今年5月から、国外に居住していても日本の国政選挙で投票できるようになった。そのためには、事前に在外選挙人名簿に登録しておかなければならない。小生は在外滞在期間が長いので、本籍のある選挙管理委員会に登録されている。


今年6月の総選挙で、初めて在外投票することになったが、投票できるのは比例区だけだ。投票期間は選挙公示の6月13日から6日間であった。


まず、投票場として指定された大使館領事部に出向いた。入口にはいつもいないはずの警備員が立っている。普段は、監視カメラだけで監視されているはずだが。中に入ると、投票説明係のような職員が出てきて、投票用紙請求書に記入するようにいわれる。ただ、小生の在外選挙人証に登録番号が記載されていないので、どうすればいいかということになった。職員は狭い館内にもかかわらず、トランシーバーでいろいろ問い合わせはじめた。結局、「記載なし」とすることで納まった。


小生の本籍のある田舎では在外選挙人登録したのは小生ぐらいであろうから、登録番号も必要ないのかもしれない。


さて、いよいよ投票場に入った。ところがだ。それほど広くもない投票場には、職員が4人も手ぐすねを引いて待っているかのように座っている。シーンと静まり返った会場に、4人が雁首を横に並べて待っていた。


これは、たいへんなところにきてしまった。


まず、投票用紙請求書をパスポート、在外選挙人証と一緒に一番右の係員に提出するようにいわれる。係員は慎重に3つの書類を照合する。次に、投票用紙を示して、記入方法を説明する。ちょっと待てよ。自分の姓名を記入したり、署名したりしなければならないという。一体それで、選挙人の匿名性は確保されるのだろうか。この点を質問してみた。


心配いりませんと保証されるのだが、わかったようなわからないような気分だ。それ以上追求したところで埒が明くまい、と思って諦めた。


さあ投票だ。記入する場所に向かうため、4人に背を向けた。ところがだ。4人の視線がひしひしと感じられるではないか。いろいろ後ろで観察されていては困ると、大急ぎで政党名を記入し、サッと封筒にいれた。次に別の封筒に署名することになるのだが、机の上には鉛筆しか用意されていない。


鉛筆で署名???そんなばかな!


鉛筆で署名したところで、いつ誰が書き換えるかわからないではないか。これはどうしたものかと、振り返って「鉛筆で署名してもよろしいのでしょうか」と尋ねる。係員たちは笑みをたたえながら、それでいいのだという。


「ハア?」と半信半疑でサインして、4人の前に戻る。


記入したものは、右から2番目の係員に渡すようにいわれる。係員は必要事項が正しく記入されているかどうか、厳重にチェックする。その間、小生は針の筵にすわったような気分でチェック結果を待つ。チェックが終わると、書類一式が右から3人目、4人目の係員へと渡されていく。


4人目の係員の任務が終わると、「ご苦労さまでした」といわれ、ようやく解放される。


こちらも「ご苦労さまでした」と礼をいう。


投票場を出たとたん、ホッとした気分になるのだが、同時に笑いが口から噴き出しそうになった。声を出して笑うわけにもいかず、笑いを必死にこらえて大使館を出てきた。この間、投票にきた人は小生以外にはいなかった。


この話をデュッセルドルフのKちゃんに話したところ、Kちゃんも同じように奇妙な体験だったといった。デュッセルドルフでは係員が10人以上もいたというからスゴイ。彼女の場合も投票者は一人しかいなかったとか。Kちゃんは夫のSを一緒に連れて投票にいったのだが、Sはあまりの仰々しさにKちゃんが投票している間中笑い転げていたという。日本人でさえ異様に感じたのだから、ドイツ人のSにはさぞかし異常な事態に移ったのであろう。


選挙の結果だが、全くもって恥ずかしい首相を再選させることになった。こちらのほうはもっと奇怪だ。外国にいると、よく理解できない。(J・O)


(2000年8月1日)
前の項へ←←      →→次の項へ        →記事一覧
このページのトップへ