2018年7月掲載 − 小さな革命 − J・Oのベルリン便り
アッハソー、2002年5月

5月1日はメーデーの日。もともとは、欧州で古くから続いている春の祭りだが、19世紀半ばから労働の祭りとする催しが同じ日に行われている。ベルリンでは、同時に暴動の日でもある。


壁が崩壊する前は、西側のクロイツベルク地区が暴動の中心であった。しかし今は、東側のプレンツラウアー・ベルク地区にまで暴動が拡大している。暴動の中心となっているのは、オートノーメと呼ばれる極左の若者たち。極左といっても、現在はそれほど政治的背景は見られない。スーパーマーケットに押し入って商品を盗んだり、路上駐車されている自動車のガラスを割ったり、自動車をひっくりかえしては、自動車に放火したりする。もうひとつの主な目的は、警察権力と衝突することだ。路面の石をほじくり出しては、警官や警備車に向けて投げ付ける。5月1日にベルリンで、この種の暴動が起こらないことはもう考えられず、暴動は年中行事として儀式化してしまっている。


ただ壁崩壊後に、暴動の形態がより複雑化してきているのも事実。5月1日の1日だけで、たくさんのグループがベルリンにやってきて、デモを行うようになった。今年は、ベルリンだけで42のデモが許可された。労働組合や左派グループはもちろんのこと、最近は極右グループが必ず同じ日にデモを計画する。そうなると、極右グループのデモを妨害しようとする左派や極左グループが極右グループと衝突する危険が大きい。そのため、極右グループのデモはできるだけ他のデモから離れたところで許可される。それでも、極右デモがあるところでは必ず反対デモがあるので、警察にはデモのある地区毎に厳重な警戒体制が要求される。警察当局にとって、5月1日は魔の1日なのだ。


メーデーの日のデモは本来、暴力を目的としたものではなく、平和に行進することを目的としている。ただ暴力が発生する危険があるのは、デモ行進が解散する前だ。

デモ隊同士の衝突を避けるため、警察は強制的に行進の行き先を変更させたり、デモ隊をある一角に隔離したりする。そうすると、デモ隊と警官の睨み合いがはじまって、両者の関係が緊迫して暴力が生まれ易い状態となる。この状態が極左の若者たちによって利用され、暴動がはじまるきっかけとなる。


これが、警察のほうが暴力を誘発しているのではないかと批判されてきた点だ。警察は警察で、暴力の発生を最小限にとどめるには、できるだけ早い段階からデモ隊を制御して暴動が起こる範囲を狭め、早めに手を打ったほうがいいという論理を取る。小生がこれまで見た限り、この手法には、旧東独下の警察権力が反体制派を鎮圧してきた方法と大きな差はない。


ただ現在警察当局は、警備面ばかりでなく、数年前から当日に暴動の中心となるクロイツベルク地区においてこども祭りを主催するなど、社会面から暴動を沈静化する施策を展開している。しかし、あまり効果が見られないのが現状だ。

今年の5月1日は、ベルリン市の政権が社民党(SPD)と民主社会主義党(PDS)の中道左派政権となったこともあって、はじめて警察側はデエスカレーション戦略を取った。警官隊はデモ隊から見えないところに待機して、暴動が起こるまで手を出さないという戦略だ。保守政党のキリスト教民主同盟(CDU)などは、ほら見たことか、生温い戦略で暴動が起こるのは当たり前だ、と批判した。


しかし前年と比較すると、逮捕者は616人から158人に減り、負傷した警官数も166人から101人に減少した。これまで暴動がデモ行進が終わらない内に発生していたのに対し、今年のデモはすべて平和な形で終了した。実際に暴動が起こったのは、デモ後である。つまりこうした戦略によって、暴動を起こす若者にとっては政治的背景よりは、むしろ暴力を行使することのほうに意義があることが証明された形となった。暴動が起こった範囲は昨年よりは拡がったものの、暴力自体は昨年に比べて穏やかだったとの見方が強い。


毎年5月1日の暴動を観察しているベルリン自由大学の教授は、警察側の暴力に対する対応の進歩を高く評価した。同教授のモットーは、警察権力のないところに暴力はない、というもの。5月1日には暴動の起こるクロイツベルク地区から警官を排除すべきだと主張する。


暴動が起こるのがわかっていて、なぜデモを許可するのか。これが民主化された社会の自由である。極右グループのデモを許可するのも、民主的な自由がベースとなっている。むしろこの民主的な考えが、暴力が過激化するのを抑えているといってもいい。ただこうした考えは、権力を掌握する者の見方で一変する。まったく逆に解釈される可能性も大きい。それによって、暴力が一層拡大することになる。(J・O)


(2002年5月1日)
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