2018年7月掲載 − 小さな革命 − J・Oのベルリン便り
アッハソー、2003年7月

わが家で飲むビールは、ヴェルネスグルューナーと決まっている。外で飲む生ビールはだいたいラーデベルガー。黒ビールはケストリッツァーだ。マスタードはバウツェンのからし。塩付けのキュウリはシュプレーヴァルト産。アスパラガスはもちろん、ベーリッツのものがいい。ときどき手に入るヴェルダーの野菜は新鮮で最高。りんごは外見がきたなくても、小玉の特売品のほうが歯ごたえがあって、りんごらしい味がする。食べ物ばかりではない。洗濯洗剤はシュペー、マッチはリーザのマッチ、などなどなど。後で気がついたが、丈夫そうなので買ったアイロン台はチューリンゲンで造られたものであった。


なにを隠そう。これらはすべて、東部ドイツでできたものばかりなのだ。小生が旧東独にいたので、特別ひいきにしているというわけではない。ビールや食べ物は、単にそのほうがうまいと思うから買っているにすぎない。価格と品質を優先している。


先日、東部ドイツ南西部を流れるザーレ川と支流のウンシュトルート川の辺りでサイクリングを楽しんできた。この地域では、昔からゼクト(ドイツ産シャンパンとでもいおうか)の「ロートケプヒェン(赤ずきんちゃんの意)」が生産されている。旧東独時代、東側ではゼクトといえば「ロートケプヒェン」しかないくらいに愛飲されていた。しかし統一後、民営化の過程で倒産の危機に直面。幸い、従業員の一部が会社を買取って、出直すことができた。現在ロートケプヒェンは、西部ドイツの大手ゼクトメーカ「ムム」を買収するまでに成長し、ドイツのゼクトメーカの最大手のひとつに数えられる。


今回はじめて知ったのは、この地域が比較的北に位置するにもかかわらず、伝統的にワインの産地であるということだ。ザーレ川とウンシュトルート川を囲む丘にはぶどう畑が広がり、ワイン醸造業者がいくつもあった。驚かされたのは、そのワインが格別おいしいということ。ドイツワインの愛好家には申し訳ないが、小生は普通、フランスワインかイタリアワインしか飲まない。後はスペイン産、チリ産、南アフリカ産くらい。ドイツワインはちょっと酸味が強すぎて、小生の口には合わない。


しかし、ザーレ/ウンシュトルートのワインにはそれほど酸味がない。ぶどうからの果実の香りと樽からの木の香りが口の中で程よく広がり、一般のドイツワインにはない気品が感じられる。


これはいける!


この地域に惚れ込んでしょっちゅう出かけているアンドレアスさんも、ザーレ/ウンシュトルートのワインは非常に「vornehm」だと評している。vornehmは上品なとか、高貴な、気品のあるという意味だ。


ただザーレ/ウンシュトルートのワインは、昔からこれほどおいしかったというわけではないようだ。統一直後はまだ酸味が強く、それほどの高級感はなかったらしい。統一後、有機栽培に転ずるなど試行錯誤を重ね、現在の品質にまで洗練されてきたということだ。この地域のぶどう畑はそれほど大きなものではないので、ワインの生産量には限界がある。そのため、ワインは比較的高いし、ベルリンでも見たことがない。


これは、ワインを飲みにザーレ/ウンシュトルートへ行きなさいということだ。またこの地域には、フィヒテとニーチェが勉強していた寄宿舎付きの学校がある。サイクリングをしながら、ところどころでワインを試飲し、そしてワインとともに哲学に耽る。


うーん、最高だ!(J・O)


(2003年7月1日)
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