2020年8月10日掲載 − ぶらぼー!
バロックオペラの日常

今でこそ、オペラハウスでは観客が静かにかしこまって公演を観る。小声でちょっとでもぺちゃくちゃ話そうものなら、すぐに睨みつけて「シー!」と苦情をいわれる。


幕があいて公演がはじまると、舞台に集中して静かに公演を観る。音楽を聴く。それが今、もう常識になっている。


でも、バロックオペラ時代の17世紀や18世紀は、そうではなかった。オペラ劇場は娯楽の場であり、貴族や金持ちなどが社交する場だった。


今と違い、当時映画ように視覚的に関心をひきるける娯楽はなかった。その他にも、これといった娯楽がなかった時代。オペラ劇場が数少ない娯楽の場を提供していたといっていい。


古いオペラハウスにいくと、左右に桟敷席がある。桟敷席は当時、貴族や金持ちなどがシーズンを通して買い占めた。桟敷席では、売り子が席から席に移動して、飲み物や食べ物などを売り歩いた。売り子は大きな声を出して売り歩かないと、買ってもらえない。公演のことなど気にしておれなかった。


桟敷席の観客は、公演中もおしゃべりしに夢中になる。トランプやチェスなどゲームも楽しむ。もちろん、飲み食いもする。オペラ公演には集中しておれない。


観客席真ん中の平土間では、職人など一般庶民が陣取った。座る席のないところも多く、立ったままだった。それが普通だった。観客はアルコールで酔っ払い、おしゃべりが絶えない。喧嘩もはじまる。


観客は、オペラ作品の話の筋にはまったく関心がなかった。レチタティーボ(叙唱)も聴いていない。だから、話の筋はよくわからなかった。


観客を引き付けたのは、舞台衣装のきれいさ、おもしろさ、あるいは舞台装置の仕掛けのおもしろさなどだった。そこに、お目当ての歌手がアリアを唱う。観客はその時だけは、舞台に集中する。でも、熱狂して声援を送る。アリアどころではない。アリアが終わると、大喝采だった。


こうして、当時の人たちはバロックオペラを楽しんでいた。社会の道徳や規律などを忘れ、日常からハメを外すところだったといってもいい。その場で知り合って、熱い関係になったカップルもあったと思う。


バロックオペラの盛んだったヴェネチアやナポリには、いくつもオペラ劇場があった。次から次に新しい作品が登場する。観客に受けなかった作品は、すぐに演目から消えていった。当時の作曲家が多作だったのには、そういう背景もある。


現代の感覚でいえば、映画のように制作者がたくさんいて、たくさんの作品が作られた。日本でいえば、武家社会における能の間で演じられる狂言、あるいは江戸時代に大衆向けに広がった歌舞伎などと似ている面があると思う。


こうした背景を知り、バロックオペラは軽い乗りで接したい。


(2020年8月10日)
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