2021年5月10日掲載 − ぶらぼー!
わたしの生涯の音楽

先日、故指揮者ニコラウス・アーノンクールのテレビドキュメンタリー「わたしの生涯の音楽(Die Musik meines Lebens)」が放映されていた。死後5年を迎え、5年前に放映されたものが再放送されたのだった。


ぼくは偶然にも、同じチャンネルで一つ前の番組を見ていて知った。そのまま、アーノンクールの番組を続けて見る。


すぐに、このドキュメンタリーは見たことがあると気付いた。でもはじめて見たかのように、とても新鮮に感じられた。番組で流れるアーノンクールの指揮する音楽が、今もとても新しい。聞けてよかったと、すごい満足感を持つ。


ドキュメンタリーでは、アーノンクールがチェロ演奏者から指揮者になり、それもバロック音楽のスペシャリストになるプロセスが年を追って描かれている。


アーノンクールが自分で指揮をすると決心したのは、「巨匠といわれる指揮者の下で、(オーケストラでチョロ奏者と演奏していても)いいと思ったことがない」からだった。それならと、自分の音楽を追求するために指揮者になることを決める。


アーノンクールをバロック音楽に引きつけていったのは、モーツァルトだった。モーツァルトは、それまでの巨匠のように、ロマンチックな演奏をしていたはダメ。生死に関わるほどの劇的な音楽でなければならない。アーノンクールはそう語る。それは、バロック音楽の演奏法によってしか実現できない。


それが、アーノンクールがバッロク音楽演奏法のスペシャリストへと変遷させていく根源だ。バロック音楽演奏法がベートーヴェンにまで引き継がれるべきなのはすでに書いた(「ベートーヴェンの音楽には古楽器が似合う」)。ドキュメンタリーでは、アーノンクールが交響曲第5番運命の最初の部分を指揮するシーンが出てくる。それを聞くと、「これだ。これがベートーヴェンだ。ベートーヴェンの音楽だ」と、思わざるを得なくなる。高齢な人が聞くと、心臓麻痺を起こしてしまいそうだ。


でもアーノンクールの神髄は、バロック音楽にある。70年代後半にスイスのチューリヒにおいて、アーノンクール指揮/ポネル演出でモンテヴェルディのオペラ3作が上演されたのはすでに書いた。それが、バッロクオペラの伝説になっている。


その一部は、ドキュメンタリーに組み込まれていた。「オルフェオ」のプロローグと、第5楽章最後のところだった。ほんの少しだったが、「いや、これはすごい」。音のメリハリがはっきりしている。音楽が生き生きだ。信じられないくらい。ぼくはなぜ、すべてを聞くことができないのだろうか。「このまま、最後まで聞かせてくれ」と叫びたいくらいだった。


すぐに、ネットでこの番組を見ることができないかと探した。ありがたいことに、YouTubeにアップされていた。


コロナ禍のロックダウンで、コンサートやオペラ公演はここ6カ月以上もない。それだけに、ネットでこうして音楽番組や聴衆なしのライブストリームを観れるのは、とても貴重な時間となっている。


でもぼくは、アーノンクールの番組で当分、音楽を聞く必要はないと思う。それくらいに満足度充分だった。アーノンクールの音楽はまだ生きている。


(2021年5月10日)
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関連サイト:
アーノンクールのドキュメンタリー番組「わたしの生涯の音楽(Die Musik meines Lebens)」(ドイツ語)
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