2019年9月16日掲載 − ブラボー!
能とバロックオペラ

2019年9月はじめ、ベルリンで能楽公演を観ることができた。ベルリン音楽祭の期間中、国際的に著名なオーケストラに混じって、日本の梅若会が客演した。


ベルリン・フィルハーモニーの大ホールにヒノキの能舞台が設置され、能と狂言が演じられた。能は、世阿弥作の五番目物と四番目物だった。


日本の伝統芸能をはじめ東洋の芸術は、ヨーロッパでは芸術ではなく、民芸として扱われることが多い。それだけに、能楽がベルリン音楽祭のプログラムに入って、「おお」と思った。


公演が終わって見ると、やはり音楽祭でなければならなかったと思った。能楽公演を音楽祭に入れた主催者は、「さすが」だ。


ぼくは、これまでバロックオペラから現代オペラまでたくさんのオペラ公演を観てきた。その積み重ねがなかったら、今回、能がこれほどすばらしとは感じられなかったかもしれない。


ぼくは今回能楽公演を観て、能が芸術の形態として西洋芸術のオペラに相当するものだと痛感した。それも時代からして、能はバロックオペラよりもずーと前の時代のものだ。それが、驚かされる。


能にはオペラと同じように、登場人物(シテとツレ、ワキ)が歌手であり、楽器(笛と小鼓、大鼓、太鼓)もコーラス(地謡)もある。


オペラには能のように演技のパターン(型)はないが、三方の観客を意識した動きは、舞台芸術ならではのものだ。能の謡にもパターンがあるが、それもバロックオペラに通じるものがあると思う。


何といってもびっくりさせられるのが、能のパターン性と物語性がうまくマッチしていること。今回観た世阿弥の作品は15世紀前半につくられたものだから、室町時代だ。


それに対して、バロックオペラは17世紀はじめに誕生した。バロックオペラ最初の作品に数えられるベーリの「エウリディーチェ」は、1600年にできたもの。でもその物語性には、ぼくは世阿弥の作品ほどの完成度を感じない。また、音楽の構造、パターンについても、能ほどの完成度はまだないと思う。


現在の能は、観阿弥や世阿弥の時代の能から発展したもののはずだ。それを一概に当時のものだとすることはできない。でもその原型は、現代の能の基盤になっているのは間違いない。


それを思うと、能という芸術の熟度に驚かざるを得ない。バロックオペラよりも、1世紀半も前からあったのだから。観阿弥にいたっては、初期のバロックオペラより、2世紀以上も前の人物だ。


能は、オペラをはじめ西洋芸術に大きな影響を与えた。今回ベルリンで能楽公演を体験し、それを改めて痛感させられた。


(2019年9月16日)
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関連サイト:
梅若能楽学院会館
ベルリン音楽祭(MUSSIKFEST BERLIN)
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