ぼくはこれまで、再生可能エネルギーで発電された電気に対する固定価格買取制度(FIT制度)は、補助制度ではなく、効果の高い経済政策だと定義しました。
その経済政策によって発生するコストは、社会全体で分配して負担しています。ぼくは、それは発電コストではなく、社会コストだと定義しています。それは、発電設備という社会のインフラを拡大させるものだからです。
ただFIT制度による負担によって、電気料金が高くなっているのも事実です。FIT制度は再エネを拡大する負担を市民に押し付けるだけで、市民にはメリットをもたらさないのでしょうか。
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この世帯では、屋根に徹底してソーラーパネルが設置されている。ドイツ北西部ザーベックで撮影 |
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ぼくは、そうは思いません。むしろ、FIT制度が一般市民に簡単に経済活動に参加する可能性をもたらしていると思います。
FIT制度はこれまで、一般市民が自分の家の屋根にソーラーパネルを設置して発電すると、送電会社にその発電された電気を市場で取引されるよりも高い価格で買い取ることを義務つけます。
そうすることで、一般市民が自分の家にソーラーパネルを設置しやすくします。たとえ自分の屋根で発電した電気を自分で使っても、余った電気を売ることもできます。
こうして、一般市民が電力システムにおいてソーラーパネルというインフラ(発電施設)に投資し、電力システムの一部になることができるようになりました。
さらに一般市民が電気自動車を購入すれば、その蓄電池は将来、地域の蓄電施設の一つになる可能性も生まれます。
ソーラーパネルも電気自動車の蓄電池も、市民が自分で購入します。市民が投資したものが、電力システムの一部になるのです。
これは、これまでにない変化を経済と社会にもたらすと思います。大手電力は、市民レベルの発電には手の出しようがありません。その結果、電力供給において市民は電力業界に依存する必要はなくなります。
FIT制度のおかげで、エネルギー源を石油や石炭などの化石燃料を再エネに転換するだけではなく、電力供給において一般市民が独立して、経済活動に参加できる道も開かれます。
FIT制度はこうして、構造改革を刺激します。
(2021年3月24日)
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