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クリーン・コール・テクノロジーの将来は?
(2006年6月5日)

この5月29日、ドイツでははじめての二酸化炭素を排出させない二酸化炭素フリー火力発電所のパイロットプラントを建設するための鍬入れ式が行われた。パイロットプラントが建設されるのは、東部ドイツ・ブランデンブルク州南東部ラウジッツ地方に位置するシュヴァルツェ・プンペで、伝統的に褐炭の露天掘りが中心産業となっている地域だ。


建設されるのは、褐炭を燃料とする熱出力30MWの小型石炭ガス複合発電プラントで、開発と建設には約4000万ユーロ(58億円相当)が投資され、2008年中頃に運転が開始させる予定だ。建設するのはスウェーデン系のドイツ第三の電力会社ヴァッテンファル・ヨーロッパで、二酸化炭素フリー石炭型火力発電所(クリーン・コール・テクノロジー)の商用化に向けて、必要となる技術を最適化させて技術ノウハウを蓄積したいとしている。


パイロットプラントが順調に進めば、ヴァッテンファルはまず2015年に熱出力300MWの実証プラントを建設し、2020年頃に熱出力1000MWレベルの商用発電所を建設する意向だ。


シュヴァルツェ・プンペのパイロットプラントでは、火力発電によって排出された二酸化炭素は分離、液化された後に、地下約1000メートルの層に長期貯留される。ここで二酸化炭素は、貯留層上部にある多孔質砂岩層とさらにその上にある気密な岩層によって遮断される。


二酸化炭素フリー火力発電を実現するクリーン・コール・テクノロジーでは、火力発電によって排出される二酸化炭素を排ガスからいかに分離するかということが重要な課題となる。そのために莫大なエネルギーを消費してしまうからで、それではクリーン・コール・テクノロジーで発電する意味がなくなる。


シュヴァルツェ・プンペのパイロットプラントでは、排ガスから二酸化炭素を分離する方法としてOxyfuel Processという方法が採用される。この方法では、単なる空気ではなく、純粋な酸素を燃焼ガスとして燃焼炉に入れて燃焼させる。ただそれでは、燃焼炉の温度が高温になりすぎるという問題があるため、燃焼によって発生した二酸化炭素の一部を再び燃焼炉に戻してやることで燃焼温度を下げ、それによって燃焼炉にそれほど耐超高温性の材料を使用しなくてもいいようにしている。ここで排ガスは脱流すれば、ほとんど二酸化炭素と蒸気だけになるので、蒸気を復水化させれば、二酸化炭素は簡単に回収できる。ただこの方法の欠点は、純粋な酸素を得るためにたくさんのエネルギーを消費しなければならないということだ。


たとえば二酸化炭素の分離回収技術としては、二酸化炭素を吸収剤で吸収した後に加熱することで二酸化炭素を回収する化学吸収法が有望視しされている。ただこの方法でも、エネルギー消費の低減化が大きな課題となっている。シュヴァルツェ・プンペのパイロットプラントで利用されるOxyfuel Processを開発するスウェーデンのAlstom Power社によると、化学吸収法を使用する場合、そのエネルギー消費によって発電効率が12%低減されるのに対して、Oxyfuel Processでは酸素製造のためのエネルギー消費が大きいものの、発電効率は全体で10%低減される程度に止まるという。


またAlstom Power社は、Oxyfuel Processと流動層燃焼法を組み合わせることで蒸気発生器の容量を縮小させる。流動層燃焼法では、冷却された灰が流動床に戻されるので、燃焼炉の温度が下がる。そのため、焼却炉に戻す二酸化炭素量を少量化することができ、それによって蒸気発生器の容量を従来の空気燃焼法に比べて約50%縮小することができるという。


クリーン・コール・テクノロジーの問題は、火力発電をゼロエミッション化することが実際に経済的かどうかということだ。この点について、スウェーデン・ヴァッテンファルのヨセフソン社長は、やってみないことにはわからないと答えている。その目安となるのは、二酸化炭素1トン当り分離回収貯留するコストが20から25ユーロ程度になることだ。というのは、現在欧州で実施されている排出権取引において二酸化炭素1トンの売買価格はこれまで最高30ユーロ程度となっており、この価格を越えては、排出権取引で二酸化炭素の排出権を購入したほうがコスト安になり、火力発電のゼロエミッション化は経済的に魅力を失ってしまうからだ。


もうひとつ、二酸化炭素を地下層に貯留しておいて安全かどうかという問題がある。地下で二酸化炭素を遮断する隔離層に亀裂が発生すると、二酸化炭素が地上に放出されてしまう危険がある。たとえばEUの二酸化炭素地下層固定化プロジェクトでは、ポーランド南西部で地下1000メートルにある石炭層に二酸化炭素を吸入して固定させ、同時にメタンガスを回収するフィールド実験が行われている。このプロジェクトでは、二酸化炭素を約400万年間安全に固定させるという気が遠くなりそうなことが考えられている。それで一体、本当に安全で経済的なのかどうか、はなはだ疑問になる。


たとえば前述のヴァッテンファルのヨセフソン社長が、火力発電所のゼロミッション化が経済的かどうかやってみないとわからないと発言した時に、それではなぜ、これだけ巨額の投資が確信のない火力発電ゼロミッション化に行われるのか、それなら風力発電など再生可能エネルギーに投資したほうが現実的で経済的になるのではないか、という質問が同社長に向けられたのだが、社長はことばを濁して答えようとしなかった。


ヨセフソン社長を代行して本音で答えてみると、こうなるかと思う。


再生可能エネルギーの利用は発電拠点を分散化させることを意味するので、大型の発電拠点で集中発電している大手電力会社にとって再生可能エネルギーは敵だ。その敵が勢力を拡大させて大手電力会社を脅かそうとしているので、大手電力会社はそれに対抗する手段を必要としている。つまり、従来の大型発電でも環境にやさしい経済的な発電が可能であることを示さなければならないのだ。そのためには、いくら投資してでもクリーン・コール・テクノロジーを実現させると同時に、再生可能エネルギーの普及にブレーキをかけていかなければならない。そうしないと、大手電力会社に将来はない。(fm)


(2006年6月5日)
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