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バーチャル発電所
(2006年5月10日)

再生可能エネルギーによって発電されたいわゆる「グリーン電力」が総電力消費量に占める割合は、ドイツでは2005年に10.2%となり、はじめて2桁代に入った(前年:9.4%)。風力、バイオマス、水力、太陽光など再生可能エネルギーによる発電は、発電施設が小型で、発電拠点が分散化されることを意味している。ただ火力発電や原子力発電の大型発電施設と異なり、再生可能エネルギーでは1つの発電所で発電できる容量がかなり小さい。さらに、風力発電と太陽光発電では気象条件に大きく左右される度合いが大きいことから、再生可能エネルギーで停電などないように電力を安定供給できるのだろうかと、疑問に思われている場合が多い。特に電力需要のピーク時に、発電容量が小さく、気象条件にも左右されやすい状況で、どう電力需要の変動に対応できるのか。そして、再生可能エネルギーの割合が増えれば増えるほど、再生可能エネルギーに頼らないで電力を供給できるようにしておかなければならないのではないか。そうなると、発電コストは余計高くならざるを得ない。だから、電力需要の変動に対応するには、できるだけ大きな発電容量の発電所のほうがいい。これが、大手電力会社の論理だ。


ただ別の見方をすると、大きな発電所も故障して運転できなくなることもあるので、その場合を考えると、分散化された小型発電施設のほうが被害が小さくて済むのではないか。だから小型の発電所を網を張り巡らしたように設置したほうが電力供給は安定するのではないのか。再生可能エネルギーを推進する人たちはこういう考え方をしていて、従来の大型施設による発電方法を堅持したいとする大手電力業界と真っ向から対立している。そして、それが石炭や石油などの化石燃料に依存いない発電方法だという。


大手電力会社が指摘するような再生可能エネルギーの問題は、再生可能エネルギーの割合が増えれば増えるほど顕著になる可能性があるのだが、この問題を解決するひとつの方法と見られるのが、いくつもの小型発電施設をネットワーク化して、ひとつの大型発電所のように見立てる「バーチャル発電所」の構想だ。ここでは、風力発電や太陽光発電など発電量の変動が大きい発電施設に、気象条件などに左右されないバイオマス発電やコジェネレーションシステムなどを組み合わせ、これらの施設をインターネットなどの情報通信技術を使ってネットワーク化して中央管理し、それによってひとつの発電所のように見なすのだ。ただ現在はまだ、その可能性を試すために、小さな枠組みで試験的に行いながら、その規模を拡大させていこうという段階でしかない。


たとえばウナ市(ノルトライン・ヴェストファーレン州)の場合、5つのコジェネレーションシステムに、ウィンドパーク2つと太陽光発電施設1つ、それに小型水力発電施設1つを組み合わせて、これらの施設のある地域に電力と熱を供給するバーチャル発電所が運転されている。


ここで一番重要なのは、電力需要をいかに実際に近い形で事前に予測できるかどうかだ。ウナのバーチャル発電所では、Forecastという予測システムが開発されて、過去10年間の電力需要実績から90%の精度で24時間後の電力需要を予測する。試運転期間中は、95から98%の予測精度を示したというが、今後はさらにバーチャル発電所に組み込む発電施設数を増やし、電力と熱を供給する地域をさらに拡大させていく予定という。


ゴスラール市などを中心としたハルツ地方西部(ニーダーザクセン州)では、バーチャル発電所を電力需要のピーク時に利用する調整電力用エネルギープールとして、大手電力会社から購入する電力量を抑えるために利用している。地元の配電会社は独自の発電施設を持っておらず、大手電力会社から電力を購入して地域一体に電力を供給している。ただ電力需要の変動に効率的に対応するため、地元の配電会社は地域一体に分散する個人住宅に設置された小型のコジェネレーションシステム(約200基)と小型水力発電施設、非常電源施設をネットワーク化してバーチャル発電所とした。それによって、電力需要のピーク時に電力を供給し、大手電力会社からの電力購入量にできるだけ変動が出ないようにしている。ここでもシステムの中心は、天気予報などから電力需要を予測するシステムだ。


再生可能エネルギーではないが、同じく分散して設置される燃料電池システムを組み合わせて電力と熱を供給するバーチャル発電所の可能性を試験するプロジェクトもある。ここでは、31基のVaillant社製燃料電池(定格発電出力4.6kW)を電力/熱の需要の異なる集合住宅や中小企業、公共施設に設置してネットワーク化し、中央管理してバーチャル発電所とされている。


ただ特別にバーチャル発電所という枠組みを設定しなくとも、電力市場が自由化されて、電力をどこからでも自由に購入できるようになれば必然的にバーチャル発電のような仕組みにならざるを得ない。たとえば筆者は、ベルリンの配電会社からグリーン電力を供給してもらっているが、ベルリンにある再生可能エネルギーの発電施設から直接電力がきているわけではない。ベルリンの配電会社はドイツのどこかで再生可能エネルギーで発電された電力を買って供給しているだけだ。だから筆者には、それがどこで発電され、本当にグリーン電力なのかもわからない。


それでは、なぜグリーン電力なのか。


要は、配電会社の帳簿上、年間に購入したグリーン電力量と供給した名目上のグリーン電力量が一致していればいいだけなのだ。電力は長い送電線を通って送電されてくるので、その間にいくつもの電力会社の送電線を経由してくる。その間、送電線を所有する会社が変わる毎に電力の売買が行われている。電力は公共の送電線網に入ってしまうと、電力は電力でしかないので区別のしようがない。だから、Aが発電したものがグリーン電力でも、AがBに売り渡すと、単に電力でしかなくなる。次にCに売り渡す時もそうだ。それで最終的に、筆者のところに送電されてくる。そしてこうした構図は、筆者が地元ベルリンの配電会社ではなく、ドイツのどこの電力会社と電力供給契約を結んでも同じだ。つまり、帳簿上で数字合わをするしかない。だから、こうしたシステムも一種のバーチャルなのだ。


こうして見ると、電力の供給というのは、大型発電施設を使おうが、小型発電施設を使おうが、バーチャル化が進んできた。それなら、大型施設と小型施設をひとまとめにしてもっと大掛かりにバーチャル化すればいいじゃないかということになる。しかし、それができない。


なぜか。


小型の発電施設が増えれば増えるほど、大型施設を保有する大手電力会社の既得権益が少なくなるからだ。だから大手電力業界にとって、再生可能エネルギーの利用が増えて電力市場に新興企業が参入してくるのは好ましくないのだ。(福本)


(2006年5月10日)
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