2018年7月28日掲載 − 再生可能エネルギー
容量市場は必要か?

日本では、2020年から容量市場が導入されるという。


日本の大手電力会社は、これまで総括原価方式という計画経済的な制度のおかげで、投資コストなど固定費を簡単に回収することができた。発電所の建設資金を、苦労せずに手にすることができたのだ。消費者負担によって、長期的な電力の安定供給が確保されてきたということだ。


しかし電力市場が自由化されたことで、その固定費を卸電力市場で電気を売ることによって回収しなければならなくなった。激しい競争があるので、そう簡単なことではない。その結果、発電所が老朽化しても、発電所を新設できる見通しが立ちにくくなっている。


卸電力市場では、取引価格が主に限界費用で決まる。これは、燃料などの費用ということだ。ただここでは、再生可能エネルギーが拡大するにつれ、取引価格が下がる。それは、太陽や風で発電する場合には、限界費用がほとんどないからだ。限界費用のない再生可能エネルギーは安いので、市場で価格下げ圧力をもたらす。


それで困るのは、発電する大手電力会社だ。発電所を維持、新設するのが余計難しくなる。その結果、投資を控え、電力不足になる。今度は、卸市場での取引価格が高騰する。


この問題に対処するため、これまでkWh当たりの電気だけを取引していたのに加え、発電する能力kW当たりについてオークションする容量市場を導入するのだという。これは、すでに米国や英国などで導入されている。


経産省はパブコメに対するコメントで、「容量市場は、電力システム改革の進展や固定価格買取制度を通じた再生可能エネルギーの導入拡大等により、 電源の投資回収の予見性が低下した環境下においても、効率的に中長期的に必要な供給力等を確保することを 目的に導入するものです」 としている。


経産省によると、再生可能エネルギーは固定価格買取制度(FIT)によって発電設備の維持、新設が確保されるので、容量市場から除外されるという。さらに、発電能力を確保するものなので、既存発電所と新設発電所の区別をしないのだという。つまり、発電所への投資が回収されていようが、されてなかろうが、関係ないことにするようなのだ。


ベースロード電源とピーク時などの需要に応じる調整電源が、容量市場の取引対象となるということだ。だがそうなると、調整電源の規模をどう規定するのかもよくわからない。それも、すべて市場の自由競争に任せていいとは思われない。というのは、ベースロード電源と調整電源は需要にあった割合で、分割されなければない。市場原理でその割合が決まっては、安定供給は実現できない。


また経産省は、容量市場の導入によって卸電力市場価格が安定、低下するので、容量市場導入による大きな負担増は見込まれないともしている。ただ本当に、容量市場ができたからと、卸市場での価格が下がるのか、その保証はどこにもない。


本来だと前述したように、再生可能エネルギーが拡大するにつれ、価格下げ圧力が強くなる。確かに、日本政府の「第5次エネルギー基本計画」 は再生可能エネルギーを「主力電源」にするとしている。しかしその目標は、電源構成に占める割合を2030年度までに22%から24%にする程度にすぎない。そのうち、約9%は水力発電だ。水力発電は確かに自然エネルギーだが、日本のような大型ダムを使った水力発電は再生可能エネルギーではない(「再エネいろは」を参照)。


再生可能エネルギーの割合は、実質、最高15%程度にしかならないということだ。ドイツのこれまでの経緯からすると、その程度では、停電したり、卸電力価格が急激に下落するなど、安定供給と卸電力市場に大きな影響を与えることはほとんど考えられない。


この状態で、容量市場導入による大きな負担増は見込まれないとする経産省の根拠がよくわからない。むしろ、容量市場の導入で得するのは、大手電力だけになるように思えてならない。


日本の固定価格買取制度(FIT)では、ドイツと違って再生可能エネルギーで発電された電力を優先的に買い取らなければならないという義務はない。その点、日本では電力側の勝手な意向で、再生可能エネルギーを送電網から切り離すことができる。それに対する損害を賠償する義務もない。


それなのに、日本政府はなぜ容量市場の導入を急ぐのか?


容量市場でのコストはまず、小売電気事業者が負担し、競争のない託送料に上乗せして消費者から回収することになると見られる。消費者がこれまで通り、原子力や石炭火力発などの大型発電施設の建設コストを負担することになる。確かに、総括原価方式はなくなった。でも電力市場の自由化で、それに代わる新しいメカニズムができるというだけの話ではないのか。


だから、急ぐのだ。それによって、原子力発電が実際にはいかに高いものなのか、ばれないように消費者の目をくらましてカモフラージュするのだ。そのためには、制度も複雑にする必要がある。


ドイツでも、容量市場の導入について検討されたことがある。しかしそれを止め、戦略的予備力という方式で対応することになった。これは、変動の大きい再生可能エネルギーに対応するため、変動に対応しやすいガス火力発電を調整電源として需要に応じてキープしておくというものだ。これは、再生可能エネルギーの拡大で、発電量の変動に早く対応できるようにするためだ。


ドイツは、主力電源を再生可能エネルギーにして、再生可能エネルギーだけによるエネルギー供給を目指している。そのため、原子力や石炭火力を延命する目的の過渡的な容量市場はいずれ不要になると判断された。一旦導入してしまうと、それを廃止するのも難しくなる。まともな選択だと思う。


変動の大きい再生可能エネルギーが拡大すればするほど、石炭火力や原子力のベースロード電源と両立させるのが難しくなるのもわかってきた。それについては、すでに「再エネいろは」で書いているので、参照されたい。その結果、石炭火力発電や原子力発電では、まったく利益を上げることができなくなり、電力業界を再編せざるをえなくなった(「ドイツ電力最大手再編へ」と「ドイツ電力大手が再々編」を参照)。


ドイツではむしろ、エコ研究所やグリーン電力小売事業者のグリーンピースエナジーなどが、再生可能エネルギーに容量市場を導入することを提案している。太陽光、風力では、再生可能エネルギーによる発電コストが下り続けている。いずれ、発電コストが数円程度になるのがはっきりしてきている(これについては、「ドイツのFIT制度、入札で競争論理を取り入れ:(2)陸上風力発電の状況」と「ドイツのFIT制度、入札で競争論理を取り入れ:(5)太陽光発電の状況」を参照)。


ただそれでは、再生可能エネルギーに対する投資意欲を促進しない。再生可能エネルギーでも、いずれ発電で利益を上げることができなくなるのは明らかだ。しかし、それでは再生可能エネルギーを拡大できない。その解決策として、再生可能エネルギーに容量市場を導入しようということだ。
(2018年7月28日)

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