米国電気自動車メーカのテスラ社が、ドイツではじめて電気自動車の製造を開始する。
同社ムスクCEOは今年2019年11月、ドイツ北東部ブランデンブルク州のグルューンハイデに巨大な電気自動車製造工場を設置すると発表した。グリューンハイデは、ベルリン郊外にある森林に囲まれた人口8500人の小さな自治体。それが、一夜にしてドイツの注目を集めることになる。
1カ月後の12月には、ブランデンブルク州とテスラ社で土地売買契約書の内容で合意。両者で契約書に署名する段階になったという。2020年前半に工場の建設を開始し、2021年から新型のモデルYというミディアムSUVが製造される。
ドイツの自動車産業は、バイエルン州(BMW社とアウディ社)とバーデン・ヴュルテムべルク(メルセデス社とポルシェ社)のドイツ南部に集中している。フォルクスヴァーゲン社だけが、ドイツ北西のニーダーザクセン州に立地しているにすぎない。
自動車の部品産業も、ドイツ大手自動車メーカの工場周辺に集まっている。
それがなぜ、テスラ社は自動車産業の地盤のないベルリン郊外に進出してくるのか。
その答えは、簡単だ。
ドイツの北部では風力発電が盛んで、再生可能性エネルギーで発電された電気がたくさんあるからだ。その他にも、ベルリンにデジタル化などの新興企業が多いことや、ブランデンブルク州が蓄電池の製造などで産業誘致を目論んでいることがある。
ドイツでは、再エネによる発電量において大きな南北格差がある。北部では、地域の需要以上に電気が発電されている。それに対し、原子力発電の依存度の高いドイツ南部では、脱原発によって今後さらに電気の供給不足が心配される。そのため、北部で発電された電気を南部に送電するため、高圧送電網の整備が急務となっている。
しかし、それが住民の反対などで進んでいない。
またドイツの産業構造にも、南北格差がある。ドイツの産業の中心は南部にあり、その分電気の需要も高い。
しかし現在、風力発電を中心にして再エネによる発電量の多い北部では、電気が余り、状況に応じて風力発電の出力抑制をしなければならない状況になっている。それだけドイツ北部のほうが、電気の安定供給が保証されている。
再エネの普及に伴い、ドイツ北部地域の産業立地条件が大幅に改善されたのだ。
本サイトでは、風力発電産業の存続危機問題についてすでに報告した。その問題に関する記者会見の席上、ドイツ北西ニーダーザクセン州のヴァイル州首相は、「ドイツ北部が再エネによって産業立地地域として産業界から高い関心を持たれているのを肌で感じるようになった」と、語っていた。
再エネの普及で、ドイツの産業構造が変わることも予想される。
(2019年12月21日)
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