2020年11月17日掲載 − 脱原発
独憲法裁判所、脱原発による損賠賠償の再規定を求める

ドイツ憲法裁判所は2020年11月12日、2011年の福島第一原発事故後に確定したドイツの脱原発に関して、停止した原子炉の損害賠償を再規定することを求める判決文を公表した。


ドイツでは、福島第一原発事故直後に1980年以前に稼働した古い原子炉8基を停止させた。その後の8月に原子力法を改正。停止した8基の停止を法的に確定するほか、残りの原子炉9基も段階的に停止し、最終的に2022年末までにすべての原子炉を停止することを規定した。


ただこの政府の原子炉停止要求には、原子炉を有する電力大手が損害賠償などを求めて提訴していた。ドイツ憲法裁判所は2016年12月、主に3つの原子炉に対する停止要求は違憲として、損害賠償するようドイツ政府に求める判決を言い渡していた。


ドイツ政府はその損害賠償を規定するため、2018年に原子力法を改正。ただ改正法は、EUの認定を前提とするほか、損害賠償をすべての原子炉が停止する後の2023年に後回しする内容だった。2018年の改正原子力法は、EUの認定を受けていないことから、実際にはまだ施行していない。


今回憲法裁判所は、2018年の改正原子力法に異議を呈し、2016年の判決を早く立法化して損害賠償を規定するよう求める形になった。


福島第一原発事故を契機に脱原発を決定したメルケル首相の英断は、今も日本では賞賛されていると思う。でもその英断は、実は違憲だった。なぜ違憲なのか、それを説明しておきたい。


これは、ぼくがドイツの脱原発は元来、2011年のメルケル政権の脱原発ではなく、2000年のシュレーダー政権時の脱原発だといっていることにも関係している。ぼくは、メルケルの当時の判断は脇が甘かったと思っている。


当時、シュレーダー政権は脱原発を実現すべく、電力業界と協議に入った。それは、政府が法的権力によって脱原発を規定しても、違憲だとして多額の損害賠償を請求されることを恐れたからだった。


協議の結果、原子炉の稼働年数を32.5年として、原子炉毎にまだ発電できる量(残発電量)を法的に規定した。原子炉の稼働年数を32.5年にベースにすると、2022年までに原子炉をすべて停止することになる。ただ具体的にいつ原子炉を最終的に停止するかは、残発電量を基盤にして各電力の判断に委ねた。


こうしてシュレーダー政権は、電力業界と脱原発で合意し、電力からの提訴を回避した。それを法的に規定する。


ところが、シュレーダー政権後に保守中道の第一次メルケル政権が誕生すると、2010年秋にこの脱原発合意を見直し、原子炉の稼働年数を延長し、最終的な脱原発を2036年までに延期することを法的に規定した。


そのすぐ後に、福島第一原発事故が起こる。メルケル政権は、一旦見直した脱原発の延期を撤回し、原子炉毎に最終停止時期を法的に規定するため、原子力法を改正。2022年までに脱原発を達成することにする。要は、法的権力によって脱原発を強制した形になった。


ドイツ憲法裁判所が脱原発を違憲とする根拠は、ここにある。


2011年の原子力法改正によって、一旦法的に原子炉毎に規定された残発電量と、その見直しによって保証された原発への新たな投資基盤が、破棄されたことになる。これは、法的権力による財産没収を意味する。


憲法裁判所は、この財産没収を違憲だとする。ぼく自身も当時、そう解釈されることを恐れていた。


ドイツは今後、2021年末までに原子炉を3基、2022年末までに原子炉を3基停止させ、脱原発を達成する。時期的には、シュレーダー政権時の元々の脱原発と変わらない。でも納税者である国民は、多額の損害賠償を負担しなければならない。その額は、まだ確定できない。でも政府は、数10億ユーロ(数1000億円に相当)になると予想している。


ドイツ政府は、これまで積み立てられてきた原発バックエンド資金を、廃炉を行う電力側と放射性廃棄物の処分を行う国側で分配する時、脱原発による損害賠償を政府に供与するバックエンド資金と相殺して和解することも考えられていた。でもそれも、必ずしもうまくいかなかった。


結果として、政治の判断ミスで高額の脱原発となる。電力側がホクホクしている顔が浮んでしまう。


(2020年11月17日)
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ドイツの最初の脱原発政策(PDFダウンロード)
関連サイト:
今回のドイツ憲法裁判所判決文プレスリリース(ドイツ語)
2016年のドイツ憲法裁判所判決文(ドイツ語)
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