前々回投稿したドイツの脱石炭ロードマップを見ると、旧東ドイツに立地する石炭火力発電所が優遇されていることに気づく。
ぼくは、脱石炭について審議する石炭委員会のある委員と話したことがある。その委員は、ドイツ統一で過酷な変化を強いられてきた旧東ドイツのことを特別に配慮しなければならないといっていた。
この委員は、旧西ドイツで主に石炭の露天掘り炭鉱と石炭火力発電所を停止することになるノルトライン・ヴェストファーレン州から選出された委員だった。
石炭委員会は、社会的なコンセンサスを求めるため、社会の各層の代表で構成された。脱石炭で影響を受ける地域からも委員が選出された。
しかしその諮問案に対し、旧東ドイツ・ラウジッツ地方から選出された女性委員だけは、旧東ドイツ地域には厳しすぎるとして諮問案に賛成しなかった。
その意味で、ドイツ自然保護リングのニーベルト代表が2020年1月21日の会見で、「(政府の合意は、)社会的コンセンサス破りだ。社会を混乱させるだけ」と批判したのは、少し偏っている。
政府の脱石炭合意に対しては、石炭委員会の委員8人が連名で合意内容を批判する声明を公表した。しかし、その8名はすべで旧西ドイツで選出された委員だった。
ドイツ自然保護リングなどドイツの主要環境団体は、旧西ドイツを地盤としている。緑の党が躍進しているが、依然として旧西ドイツ政党だといわなければならない。
この状況からすると、現在ドイツで気候変動問題で議論されていることは、旧西ドイツからの視点でいわれているにすぎない。
ドイツ全体の二酸化炭素排出の削減は、ドイツ統一後、旧東ドイツの産業が崩壊したことに大きく依存している。それがなかったら、ドイツは二酸化炭素の排出を2019年までに1990年比で35%も削減できなかった。
再生可能エネルギーの普及率を見ても、旧東ドイツのほうが旧西ドイツよりも格段に普及している。それは、脱石炭の影響を受ける州だけ見ても明らかだ。
石炭産業のある州の電力消費における再エネの割合(2017年)は、ブランデンブルク州85.9%、ザクセン・アンハルト州68.1%、ザクセン州21.5%、ノルトライン・ヴェストファーレン州12.7%と、ノルトライン・ヴェストファーレン州以外の旧東ドイツ州が俄然優位に立っている。
ドイツ自然保護リングのニーベルト代表は2020年1月21日の会見で、旧東ドイツ州を優遇することで、二酸化炭素排出が約束通りに削減できないと批判した。しかし、ドイツで二酸化炭素排出の削減が数年遅れようが、世界全体の気候変動に変化をもたらさない。
ドイツ政府が諮問案から後退したことで、ドイツの脱石炭に対する取り組みに対する国際的な見方が悪くなるとの批判もある。しかし、脱石炭を政治的に決めた国は、他にどこにあるだろうか。ドイツは、それでも唯一の先駆者だ。
気候変動や脱石炭では、もっと社会的なことを考えた冷静で公平な議論が必要だと思う。
(2020年2月01日)
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