最終処分候補地を選定するプロセスに住民参加を取り入れる上で大切な組織が国家随行委員会(Nationales Begleitgremium=NBG)であることは、前回書いた。NBGは、最終処分候補地選定におけるオンブズマンのようなものだ。
住民参加のプロセスにおいて、一般市民は最終処分候補地選定がどういう形で選定されたのか、その背景を知る必要がある。知る権利があるというべきだ。
そのために設けられているのが、専門会議(Fachkonferenz)といわれるものだ。最終処分候補地を選定するための第一段階として、主に文献調査から得られた結果が、中間報告の形で発表された(ドイツ、最終処分地候補を中間発表)。中間報告結果について一般市民に説明する専門会議が、今後3回開催される。この回数も、法的に規定されている。
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中間報告書で最終処分候補地に挙げられた地域。青と紫の地域が粘土層、緑と薄青の地域が岩塩層、肌色の地域が花崗岩層(出典:Bundesgesellschaft für Endlagerung(ドイツ最終処分機構)) |
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中間報告に関する専門会議は今のところ、今年(2021年)2月と4月、6月に開催される。ただコロナ禍で、会議はすべてオンラン会議となる予定だ。
コロナ禍ということで、オンラインの形で会議を実施すべきなのかなど、オンラインで会議を強行することには批判もある。なぜコロナの影響が収束してから会議を実施できないのか。そのほうが、市民は議論に参加できるのではないか。市民のいろいろな意見が聞けるのではないか。それをしないのは、行政側主導の選定を意図するものではないかなどと、厳しい批判もある。
専門会議の実施についても、住民参加が徹底される。行政側は市民代表で構成される専門会議準備委員会をサポートし、準備委員会で決定されたように専門会議を実施するだけだ。
しかしその準備委員会において、準備が順調に進んでいるとはいえない。準備委員に選出された委員が、準備委員会がはじまってすぐに何人も辞任している。準備委員の中には、準備委員が本当に民主主義的に選出されたのか疑問に思うといって、辞任した委員もいた。市民が集まって社会的コンセンサスを求めることの難しさを痛感した、この準備委員会では無理だとして辞任した委員もいた。
ぼくにとって一番残念だったのは、10代の若い委員がかなり早い段階で辞任してしまったことだ。最終処分の問題は世代間に渡る大きな問題だ。それだけに、若い世代の代表に専門会議の準備に加わっていてほしかった。
準備委員会の会議も、一部オンランで視聴できるようになっている。そこまでして透明性にこだわってはいるが、ぼく自身としては、何人かの委員の辞任の背景に何があるのか知りたいところ。そのほうが、透明性を維持するには大切なはずだ。ただ辞任した委員は、多くを語ろうとしなかった。
もちろん、異なる意見を持つ市民同士が集まってコンセンサスを追求するのは、たいへん難しい問題なのはわかる。委員の辞任問題が後に尾をひいて、専門会議の意義そのものまで疑問視されなければいいがと思っている。
まだドイツ全体の50%くらいが最終処分の候補地として残っている状態だ。その段階で、なぜいろいろ揉めるのか。その理由がわからない。個人的には、今の段階の専門会議はこれから住民参加を実現する上での予行演習のような気分でやってほしかった。
今のシステムのどこに問題がるのか。あるいは、この問題で住民参加を目指すこと自体にどこかに無理があるのか。それは今後、専門会議が実施されるプロセスにおいていろいろわかってくるかもしれない。
最終処分候補地の選定は、段階を経る毎にコンセンサスを求めるのが厳しくなる。それだけに、最初の段階でのつまずきはちょっと気にかかる。
(2021年1月26日) |