高経年化した老朽原発の安全性を評価するため、定期安全レビューや健全性評価などの安全性評価が行われる。問題は、安全性を評価するための検査をどう行うかだ。
原発の機器や設備は、製造段階から厳しく検査される。それに対して、原発が一旦稼働してしまうと、製造段階と同じレベルではもう検査を実行することはできない。なぜなら、組み立ててしまうと隅々まで検査することはできない。 組み立てられた機器や設備は大きいので、それをすべて満遍なく検査することもできない。
原発の場合、一旦稼働すると放射線の問題があるので、機器や設備の中には現物に近づけないものもある。
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ドイツ南部のミュンヒェンから東に位置するチェコのテメリン原発では、非常時用核シェルターにおいてカメラの遠隔操作で格納容器内の圧力容器の状態を目視できるようになっていた(写真上のモニター)。 |
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現物を検査するには、非破壊検査という方法が使われる。対象を破壊しないで検査、試験する方法だ。
まず検査の第一段階は、目視検査だ。目で見て異常がないか検査する。だが目視検査では、目で見える外観しか検査できない。内部の傷や異常などは検出できない。
それに対して、放射線や超音波などを使えば、内部の状況も把握することができる。ただこの方法では、大きな機器全体を検査することはできない。検査できるのは、一部だ。
さらに、検査する対象物と同じ材質の一片を使って実験室でその耐久性を検査して、それからモデル計算することによって現場にある機器や設備、配管などの状態を把握する手法もある。
ぼくは前回、各原子炉の機器、設備の技術的な状態が原子炉毎に異なり、それをはっきり見極めなければ安全性は評価できないと書いた。でもこれまで挙げた検査方法では、現場の状況を隅々まで把握するのは不可能であることがわかると思う。
いくらモデル計算しても、現場の状況を反映しない可能性が高いといわなければならない。
原発は制御系統によってコントロールされ、その制御系統にはたくさんの種類の異なるケーブルが使用されている。制御系統では機能検査はできても、ケーブル自体の状態を検査することはできない。高経年化した原発では、ケーブルの被覆が劣化して破れてしまい、短絡などが起こる心配もある。でもそれは、短絡が起こってみないことには、どこに問題があるのかわからないことが多い。
制御系統は、原発の脳でもあるだけに、制御系統の不具合次第では原発が暴走しかねない。そういうと、一つの系統が機能しなくても、その予備系統も用意されているので(冗長化)、原発の安全は維持されていると反論されるかもしれない。
その反論には、福島第一原発事故における非常用電源装置が機能しなかったことを挙げれば、十分だと思う。
こうして見ると、老朽原発の運転期間を延長するために検査される安全性の評価というのは、技術的な制限の下で行われ、そこから得られた不安定な予測にすぎないことがわかると思う。
そうして得られた安全性評価の結果から、老朽原発の運転期間を延長していいのだろうか。ぼくは不安だ。
(2021年8月03日) |