2021年10月26日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
小型原子炉は一度にたくさん生産できない - 小型原子炉は救世主か(10)

これまで、「小型原子炉は救世主か」というタイトルで9回連載した。9回目は、今年2021年7月前半に本サイトにアップした。その後、他のテーマで脱原発の問題について書いたが、小型原子炉のことで一つ重要な問題について書いておきたい。


すでに「小型原子炉は救世主か」の5回目「原子力発電は気候変動対策にはならない - 小型原子炉は救世主か(5)」でも少し触れているが、ここでもう一度少し詳しく書いておく。


気候変動問題で二酸化炭素を排出しない小型原子炉は、ある種の「救世主」のように見られている。世界の工業国は概ね、2050年までには二酸化炭素排出を実質ゼロとしてカーノンニュートラルを実現したいとしている。小型原子炉で脱炭素化を図る目論みだ。


それまでに残された時間は、どれだけあるだろうか。


現在2021年なので、もう30年もない。その短い時間に二酸化炭素の排出を実質ゼロにするのは並大抵のことではできない。そのためには、小型原子炉は世界全体で何基必要になるのだろうか。


ぼくが2008年夏に長崎で原発が気候変動を解決しないというテーマで話した時、国際エネルギー機関(IEA)がG8サミットのために作成した当時最新のスタディを引用した。そこでIEAは、2050年までに二酸化炭素の排出を当時のレベルから半減させるには、原子炉を新たに1344基新設する必要があるとした。


当時のことだから、発電出力は100万キロワット以上の大型原子炉が想定されていたに違いない。それをたとえ最低の100万キロワットと仮定しても、総出力で13億4400万キロワット分の原子炉が必要になる。それも、二酸化炭素の排出を半減させるためだけだ。


今はそれを、実質ゼロにしようとしている。


小型原子炉を開発しているニュースケールパワー社の小型原子炉の出力は、7.7万キロワットだ。13億4400万を7.7万で割ると、約1万7500基の小型原子炉が必要になる。それでも、二酸化炭素の排出量は半減させることしかできない。


もちろん当時に比べると、現在は再生可能エネルギーが普及している。再エネの割はさらに増えるだろう。


そこで、再エネで二酸化炭素排出量を半減させると仮定しよう。それでも小型原子炉は、約1万7500基必要になる。再エネの割合がもっと増えれば、小型原子炉はそんなに必要ないかもしれない。ただ小型原子炉に依存してカーボンニュートラルを実現するには、莫大な数の小型原子炉が必要となることは、わかると思う。


それをたとえば、1万5000基として見よう。小型原子炉が実用化されるにはまだ10年近くかかる。ということは、小型原子炉の開発が予定通り進んでも、20年の間に1万5000基を生産して稼働させなければならない。単純計算しても、年間最低750基の小型原子炉を製造しなければならない。


原子炉の製造には高度が技術が必要だ。自動車を生産するのとはまったく違う。一つ一つのプロセスで検査も厳しい。


現在、世界でも原子炉製造メーカーといわれるのはごくわずか。大手メーカは小型原子炉の技術を持っていないので、技術移転もしなければならない。原子炉圧力容器を製造できるメーカは、原子炉製造メーカよりもさらに少ない。たとえ新しい企業が登場するとしても、それが十分な技術力を持つようになるには、かなりの時間がかかる。技術者も検査官も育成しなければならない。


それをすべて、最長でも20年間という短い期間に実行しなければならない。現在、大型原子炉1基設置するのに10年かかるといわれる。でも現実には、20年以上かかっている。100万キロワットの原子炉1基を設置するのに20年以上かかるのに、それよりも短い期間に、7.7万キロワットの小型原子炉を1万5000基設置しなければならない。


さらに原子炉を生産するためには、またたくさんの鉄材が必要となる。鋼鉄など原材料の生産も追いつくだろうか。並行して産業をグリーン化するためにも、鋼鉄などたくさんの原材料が必要だ。


こうして見るとぼくは、小型原子炉に依存するにはいろんな点で無理があると思う。小型原子炉は、気候変動の救世主ではない。そう思うのは、夢のような話だ。


(2021年10月26日)
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関連サイト:
地球環境産業技術研究機構(RITE)のサイト
小型原子炉を開発するニュースケールパワー社のサイト(英語)
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