2021年6月08日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
原子力発電は気候変動対策にはならない - 小型原子炉は救世主か(5)

ぼくは2008年、日本で原子力発電が温暖化対策として貢献しないという話しをした。その時点において、世界は2050年までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を90年比で半減させるとしていた。


国際エネルギー機関(IEA)は当時、そのためには新しい原子炉を世界中で1344基建設する必要があると試算した。


その講演録が、本サイトの記事「原子力ルネッサンスの幻想と脱原発へのビジョン」に掲載してある。特に、3/4ページと4/4ページ。


それ以降、原子力発電の割合は増えただろうか。増えていない。それどころか、原子力発電の割合は、減る傾向にある。


それは、日本で原発事故があって、50基余りの原子炉が停止したからではない。世界中で、原子炉が老朽化している。原子炉が寿命に達し、最終的に停止せざるを得なくなっているからだ。


日本政府が安全性を正当に評価しないまま、原子炉の稼働年数を40年から60年に引き上げたことを見てもわかると思う。安全性に目をつぶっても、原子力発電の寿命を引き延ばさないといけない状況になっている。


原子力発電を巡る状況は現在、当時から変わっていない。それに対して世界中では現在、2050年までに温室効果ガスの排出を半減するどころか、二酸化炭素等の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル化を進める工業国が増えている。


ということは、単純に計算しても原子炉が2700基必要になる。建設されようとする大型原子炉の発電出力は、100万から150万キロワット。1基100万キロワットとしても、必要となる原発の総発電出力は27億キロワットだ。その上当時に比べ、2050年まではもう30年もない。


原発推進派は、発電出力100万キロワット級の原子炉を建設するのに10年かかるとする。しかしこれまで、10年で完成した原子炉はほとんどない。ほんとんどの原子炉では、計画から建設に20年ほどかかっている。あるいは、それ以上必要となるのが普通だ。


今話題のミニ原子炉を建設するにしても、開発会社ニュースケールパワー社によると、最初に稼働するのは早くても2029年だという。


ニュースケールパワー社が開発するモジュール式ミニ原子炉の出力は、7.7万キロワット。27億キロワット分の発電容量をミニ原子炉でカバーするには、3.5万基以上のミニ原子炉が必要になる。


小さくても、原子炉を建設する負担を考えると、気が遠くなる。世界には、それだけ短い期間に原子炉を製造するには、その生産容量も技術者も不足している。それを無理して製造すると、安全性に問題が発生する。


もう一つの問題は、たとえ2030年前後にミニ原子炉が稼働を開始したとしても、当分の間は老朽化した原子炉の代わりになるだけだということだ。ミニ原子炉の出力は小さいだけに、原子力発電の割合は当分、増えるどころか、減る一方だ。


それでは、気候変動を抑えることには役立たない。


10年以上も前から、原子力発電が温暖化対策に貢献しないことはわかっていた。それなのに、ここにきて原子力発電が当時以上に救世主のように騒がれるのはなぜか。ぼくには、まったくもってわからない。


今、原子力発電が温暖化対策にならないことは、10年以上も前よりももっと明らかになっている。あれから10年以上も経過した分、それだけ事態は緊急性を要している。


それにも関わらず、緊急な問題に対して建設までに時間のかかる原子力発電に期待することには、合理性がない。正当な議論ではない。


(2021年6月08日)
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関連サイト:
小型原子炉を開発するニュースケールパワー社のサイト(英語)
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