2021年9月21日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
日本は放射性廃棄物を国外輸出するのか

これまで何回も、日本の第6次エネルギー基本計画(素案)の問題について指摘してきた。そこで見逃されがちなのは、日本政府が放射性廃棄物を国外処分する道を拓こうとしていることだ。それが現実となる可能性が高い。


朝日新聞が報道したところによると(2021年9月19日付け)、低レベル放射性廃棄物となる一部の機器の処分を国外業者に委託できるよう、輸出規制を緩和するという。その対象として検討されているのは、蒸気発生器、給水加熱器、「キャスク」といわれる核燃料の輸送・貯蔵容器だという。


それらを「輸出」して、国外で除染、溶融して、金属素材として再利用することが検討されている。


国際的には、放射性廃棄物は発生国で処分するのが大前提。日本でも、放射性廃棄物の「輸出」は、外為法の通達で禁止されている。それを緩和して、放射性廃棄物を「輸出」できるようにするという。


国際的な約束を破って、お荷物の放射性廃棄物を国内で処分する負担を軽減しようという自分勝手な目論みだ。国際社会に対して無責任。邪道だといわなければならない。


放射性廃棄物の金属を溶融して除染し、それを金属素材してリサイクル方法については、すでにこのサイトでも報告した(「汚染金属を除染する」)。その方法については、その記事を参照されたい。


ぼくが取材したのは、ドイツ西部ノルトライン・ヴェストファーレン州にある鋳物工場。工場敷地内に放射線管理区域が設けられ、そこで汚染金属を溶かしていた。


汚染金属は切断され、輸送コンテナに入れて持ち込まれていた。そのためにはまず、大型機器が切断されなければならない。蒸気発生器には、細いチューブがびっしり詰まっており、それを切断するには大きな切断器とノウハウが必要。


ぼくは、廃炉中のドイツ北東部グライフスヴァルト原発内の中間貯蔵施設で、切断中の蒸気発生器を見たことがある。蒸気発生器は、ドイツ南西部のオブリヒハイム原発から輸送されてきたものだった。これは、廃炉ビジネスの一貫で持ち込まれた。ただそれには、地元で大きな反対があったという。


グライフスヴァルト原発内の中間貯蔵施設には、ドイツ東部ラインスベルク原発の原子炉圧力容器も持ち込まれている。汚染された原子炉圧力容器をドイツ国内で輸送したのは、これだけではないかと思う。ただこれは、グライフスヴァルト原発とラインスベルク原発が旧東ドイツのものだったという特殊事情によるものだ。


ぼくが取材した鋳物工場によると、ドイツ以外にも米国、スウェーデンなどで放射能汚染金属を溶融して除染している。ただ国内で排出された汚染金属は受け入れるが、国外からは受け入れるつもりはないといわれた。ドイツでは、放射性廃棄物の国内処分がはっきり規定されているからだ。


ただ技術移転には関心を持っており、日本に廃炉ビジネスに関心ある企業があれば、日本において共同で汚染金属を溶融することにとても関心を持っているとしていた。


汚染された大型機器を安全に輸送するのは、たいへんなこと。それをましてや国外へとなると、輸送中の安全をどう維持するのか。並大抵のことではない。


それよりは、日本で廃炉ビジネスを育成するために、国外から技術移転する道を選択するほうが、より安全だし、廃炉がより経済的になる。廃炉にかかるコストが日本で支払われ、その資金が日本に残るからだ。


日本政府には、安全意識と放射性廃棄物に対する責任感がないどころか、経済感覚もないということなのか。


(2021年9月21日)
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関連記事:
汚染金属を除染する
国内で処分する
関連サイト:
放射性廃棄物、海外処分に道筋 規制緩和で大型機器の「輸出」可能に(朝日新聞2021年9月19日付け)
第6次エネルギー基本計画(素案)の概要(経済産業省/資源エネルギー庁)
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