ドイツ高圧送電事業者4社が今年(2021年)1月になって発表したところによると、再生可能エネルギーで発電された電気の固定価格買取制度(FIT)により、昨年2020年全体で再エネ発電事業者に対して309億ユーロ(約3兆9000億円)の資金が支払われた。
この額は、これまでの最高額だ。2020年のFIT制度による負担は前年2019年の275億ユーロを上回り、前年比で約12%増となった。
FIT制度による負担は、電気料金に上乗せして回収される。しかし、電気料金から回収される額の総額は、前述した発電事業者に支払われた額よりも64億ユーロ(約8500億ユーロ)下回る見込みだ。この分は、税収などによって補填されることになる。
FIT負担が最高になったのは、発電電力量における再エネ電気の割合が増加しているからだ。昨年2020年の総発電電力量における再エネの割合は、45%を超えた模様。それも、これまでの最高となる。時期的には、再エネの割合が50%を超えていた時期もあったと考えられる。
再エネの割合が増えた背景には、コロナ禍で経済活動が縮小し、電力需要が減少したことがある。ドイツでは、再エネ法で再エネ電気の優先的な買取が義務つけられている。その分、従来の火力や原子力などで発電された電力の割合が減った。
さらに電力需要が減少したのに伴い、電力卸市場における電力の取引価格も下落した。その結果、電力卸価格と再エネ買取価格の差額がより拡大する結果となった。
その差額は、FIT制度で補填される。卸価格が下がれば下がるほど、FIT負担をより膨らます。
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ドイツ北部の北海、バルト海は遠浅なので、洋上風力発電施設は海底に固定する着床式となっている。写真は、風車のタワーを支える基礎部分 |
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ドイツでは再エネの拡大に備え、送電網整備が行われている。しかし、高圧高架線の設置には地元住民の反対が強く、送電網の整備が計画通りに進んでいない。
大型の蓄電設備の設置も、まだ再エネの拡大に追いついていない状況だ。蓄電設備では、ドイツ北部に48MWの容量を誇るヨーロッパ最大の蓄電設備が設置されている。だがこの規模の設備は、まだ稀だ。
送電網整備と蓄電設備の遅れによって、送電網が不安定になっているのも事実。その結果、再エネ発電設備を出力抑制しなければない時間帯も増えている。
送電網の規制官庁であるドイツネット機構が2020年9月までの実績から予測したところによると、2020年全体の出力抑制による再エネ発電事業者への損害賠償額は、13億ユーロ(約1700億円)を超える見込みだ。
これは、再エネ法で再エネ電気の優先買取が義務つけられていることから、出力抑制した場合、送電事業者が発電事業者を損害賠償しなければならなくなる。この負担も、電気料金から回収される。
ドイツネット機構の資料によると、出力抑制される再エネ電力量は、総発電電力量の約1.5%、FIT制度下で発電される再エネ電力の約3%に相当する模様だ。
出力抑制量は、洋上風力発電による発電電力量が多くなるとともに増えている。現在、出力抑制される再エネ電力の70-80%が洋上風力発電によるもの。残りのほとんどが陸上風力発電によるものだ。
出力抑制による負担も、FIT負担をより大きくしている。
(2021年1月16日)
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