ドイツ政府は、一部違憲判決の出た気候保護法を改正した。それによると、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を2030年までに1990年比で65%削減する。カーボンニュートラルを実現する時期も、2045年に前倒しする。
しかしドイツでは、今年2021年9月に総選挙である連邦議会選挙(下院)が予定されている。メルケル首相は引退することを決めており、現政権の任期はそれまでとなる。
前述した目標を達成するための具体的な施策は、次の政権に委ねられる。そのため、カーボンニュートラル財団とアゴラ・エネルギー転換、アゴラ・交通改革の3つのドイツの環境シンクタンクは共同で、次期政権向けに、まず前述した2030年までの目標である二酸化炭素排出を65%削減するため、50の施策を提案した。
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自動車を減らすには、中近距離鉄道の整備が不可欠。ドイツの中近距離列車は、2階建ての電車が多い(写真右の赤い電車) |
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提案された50の施策は、エネルギー、産業、交通、建物、農業、全体の6つの分野にわかれている。
エネルギーの分野では、再生可能エネルギーの拡大目標を引き上げ、陸上風力発電、洋上風力発電、太陽光発電をさらに拡大するよう提案する。太陽光発電では、メガソーラーを拡大するほか、新築建物に対してソーラーパネルの設置を義務つけるべきだとする。また、消費者でありながら生産活動もするプロシューマー(生産消費者)に対する規制緩和によって、プロシューマーをより支援するようにも勧告する。
産業分野では、二酸化炭素の排出権取引がすでに行われているが、炭素排出権に差金取引決済を導入するよう提案。製品毎に持続可能性基準を設けるほか、リサイクルなど循環経済を促進するよう勧告する。水素をベースとした産業化を支援し、促進すべきだともした。
交通分野では、電気自動車の普及と充電ステーションの拡充を進めるほか、トラックの電気化も促進すべきだとする。同時に、鉄道網を拡充して、公共交通、特に中近距離公共交通の整備、拡充を提案する。
建物の分野では、建物における脱炭素化を進め、建物のエネルギー消費基準を強化するよう提案する。自治体には、地域熱源供給計画の立案を義務つけ、熱供給のグリーン化を図る。熱供給においてヒートポンプを普及させるため、インセンティブ政策を導入すべきだとしている。
農業の分野では、窒素肥料のやりすぎが環境に影響を与えるので、窒素肥料の使用を記録することを義務つけるほか、窒素肥料に課税することも考える。また家畜のメタン排出を削減するため、肉や肉製品の消費税率を引き上げることを提案する。
全体の分野では、二酸化炭素排出権取引や炭素税で得られた収入を、再エネの固定価格買取制度(FIT制度)による負担を軽減するために使い、FIT制度負担を早ければ2022年末、遅くとも2024年末までになくして、電気料金に加算されないようにすべきだとする。化石燃料を使う分野に対する投資を抑えるため、公共投資においてはカーボンニュートラル性を重点にして投資し、化石燃料を使う分野への補助を撤廃するべきだとする。
ここに取り上げたのは、提案された50の施策の一部にすぎない。コロナ禍の影響で、社会では安定した変化の少ない政策を望む傾向が強まっている。この傾向はカーボンナウートラル化に逆行するが、次の政権がどれだけ真剣にカーボンニュートラル化に取り組むのか注目したい。
(2021年7月03日)
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