原発がすべて停止したドイツだが、その後はどうなっているのか。
1基を除き、それ以外の原発ではすでに廃炉がはじまっている(2024年末の段階)。放射性廃棄物の最終処分については、使用済み核燃料など高レベル放射性廃棄物の処分地の選定が行われている。しかしそれは当初の予定から大幅に遅れ、最終処分地が確定するまでまだ40年以上かかると見られる。
現在はまだ文献調査の段階で、2027年末までに地上調査をする候補地10カ所が発表される予定だ。
ドイツは最終処分期間として100万年を規定しており、最終処分地が運用開始されても開始後500年は廃棄物を掘り戻すことができるようにしておかなければならない。その後になってよやく、放射性廃棄物は地下に密封閉鎖される。
放射性廃棄物の処分に、いかに長い期間が必要かがわかると思う。心配なのは、そのための資金はあるのか。あっても、十分なのかどうかだ。
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写真は、地層処分調査目的に岩塩層に設置された地下坑道。ドイツ北部のゴアレーベン調査坑で撮影。ゴアレーベンの岩塩層は、最終処分には適さないとして最終処分候補地から除外された |
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ドイツでは、原発停止後の廃炉と処分に必要なバックエンド資金を電力料金に上乗せして、原発を有する電力会社がそれぞれ引当金として積み立ててきた。その額は全体で、約420億ユーロ。
すべての原発が停止するのに備え、2016年に脱原発資金検討委員会が設置され、廃棄物処分に関わる管轄と資金の分配について検討された。その結果、廃炉は電力会社が自己責任で行い、最終処分とこれまで民間ベースで行われてきた中間貯蔵を政府(国)の責任で行うとした。中間貯蔵を民間ではなく国の管轄にしたのは、最終処分地を運用するまでにまだまだ時間がかかるからだ。
国による最終処分のため、積み立てられた420億ユーロのうち総額230億ユーロが排出される廃棄物の量に応じて、電力会社から処分の資金を管理する国の基金に一括供与された。
230億ユーロという額は、将来資金不足となる可能性をカバーするため、脱原発資金検討委員会が換算した最終処分に必要なコストに35%を上乗せして確定された。ただし原発を運用して放射性廃棄物を排出してきた電力会社は資金の一括供与とともに、最終処分に関わる責任から解放され、それ以上の資金負担を負う必要がなくなる。
万一資金が不足すると、それは将来世代の負担になるということである。
ドイツ政府は、供与された資金を管理するとともに、それを株、国債などに投資して原資を増額させるため、核技術処分資金基金(KENFO)という基金を設立した。KENFOは資金運用による利回りを年間4.2%とすることを目標にしている。これまでその目標は、ほとんど達成されてきたという。
しかしぼくが、原発の資金問題を研究する教授やその他専門家と話している限り、KENFOの資金だけでは最終的に資金不足になるとの見方が一般的だ。
最終処分に必要な資金が将来不足しても、電力会社に不足分を請求せず、国が負担するのはほとんどドイツだけだといってもいい。電力市場の自由化などで電力会社に倒産する危険が出てきたことから、慌てて検討委員会を設置して最終処分に必要な資金を供与させた挙句、最終的なツケは後の世代に押し付けるという不公平なことになった。
ドイツの基金の問題は、基金が構造的に国の内部に設置され、情報公開が不十分で透明性がないことだ。資金の投資先も明確には公表されない。基金の資金運用を監視する仕組みもない。さらに問題なのは、処分に必要な資金が十分なのかどうか、将来定期的に第三者機関がモニタリングする制度もない。
これでよく、安心しておれるなあと思う。しかし基金側は資金不足の心配はない、安全に投資していると情報を発信するにすぎない。
他のヨーロッパの国では、どうなっているのだろうか。
基金を国の機構の内部におき、不足分の負担義務が電力会社に残っているのは、フランス(EDF)、ベルギー、オランダ、チェコ(廃炉基金)。それに対し、基金を国の内部ではなく、外部組織として不足分の負担義務も電力会社に課しているのは、スイス、フィンランド、スウェーデンだ。
基金によっては、ドイツと違って廃炉のためにも基金を設置しているところがある。たとえば、スイスの基金(STENFO)だ。
STENFOでは、廃炉と処分に別々の基金が設けられている。年間の利回り目標は1.6%で、こちらもこれまでほとんど目標が達成されている。
スイスの場合、原発がまだ動いており、バックエンドのために蓄えてきた引当金ないし準備金がまだ十分ではない。そのため、電力会社は5年ごとに基金に資金を追加供与しなければならない。ある意味で分割払いといってもいいと思う。
ただそのため、基金を外部組織として、必要となる資金のモニタリングもしっかりしている。基金の監視体制も二重の監視体制になっているなど、ドイツに比べ格段にしっかり考えられている。情報も毎年、オープンに公開することが義務付けられている。
(2025年6月02日) |