2017年3月15日掲載 − HOME − エネルギー選択宣言一覧 − 1章記事
エネルギーの住民自治を目指す市民

ドイツ南西部に広がる「黒い森」に、シェーナウという町があります。町では1986年4月に起こった旧ソ連チェルノブイリの原発事故を機に、医師や学校の先生など市民有志が立ち上がりました。「原子力で発電された電力はゴメン」と、市民はドイツ全国からの支援を得て市民電力会社を設立します。1990年末のことでした。市民は、地元の配電網を買い取ろうとします。当時、「電力パルチザン」と呼ばれていました。それが、現在のエヴェエス・シェーナウ(EWS Schönau)です。ドイツ全国でグリーン電力を販売しています。


1996年3月の住民投票で、地元住民から住民が配電事業を行なうことの支持を得ます。それまでは、挫折の繰り返しでした。住民が配電事業を行なうには、地元配電会社の所有する配電網を買収しなければなりません。市民たちは1997年3月、銀行融資や市民からのカンパを得て570万ドイツマルク(当時のレートで約3億4000万円)で配電網を買い取りました。その後、再生可能エネルギーで発電されたグリーン電力の配電、小売事業をはじめます。


ドイツでは、各家庭に電力を供給する配電線が公共道路下に埋設されています。電気料金にはその道路使用料が含まれており、地元自治体に支払われます。配電事業の公共性を維持するため、配電網のために道路を使用する権利を誰に与えるのか、二〇年毎に公共入札で決めます。一般市民にも、十分な資金と配電事業を行なうだけの能力があれば、応札することができます。シェーナウの住民たちは、その制度を利用して配電網を獲得したのでした。それによって、原子力に依存せず、再生可能エネルギーだけによるエネルギーの住民自治をはじめます。


シェーナウは、人口2000人余りの小さな町。再生可能エネルギー100%化を実現したフェルトハイムも、人口130人の小さな村にすぎません。その小ささ故に、エネルギーの住民自治を実現できたのでした。この二つの事例は、小さな自治体からはじめていけば、エネルギーの住民自治が可能であることを示しています。そのためには、住民自身が再生可能エネルギーで発電するよりも、住民が配電網を所有して電力の供給を自治管理するのがとても大切であることがわかります。


電力会社に依存しないで、エネルギー供給を住民自治化する動きは、ドイツでは小さな自治体ばかりでなく、大都市にも広がってきました。ドイツ北部の大都市ハンブルクでは、電力小売りの自由化直後に都市電力会社がスウェーデンの大手電力バッテンファル(Vattenfall)に売却されていました。しかしハンブルクの住民は2013年9月、住民投票で民営化された配電網の再公営化を支持します。ドイツ南西部の大都市シュツットガルトでは、住民投票で住民による配電網の買い取りが過半数の支持を得ました。


住民投票には、行政上の拘束力がありません。しかしハンブルクでは、市が設立したグリーン電力小売事業者がすでに配電網を買収し、再公営化を実現しました。今後さらに、天然ガス網と地域熱供給網を再公営化する計画です。


(2017年3月15日掲載)

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