2017年3月16日掲載 − HOME − エネルギー選択宣言一覧 − 1章記事
日本では、消費者の主権を無視

日本で2016年4月1日から電力の小売りが全面自由化されたと聞いて、ぼくは日本でも、消費者が供給される電力のエネルギー源を選択できるようになるのかと思っていました。すぐに、それがまだ無理だとわかりました。


電力商品の電源構成が、表示されないからです。電源に関する情報がない限り、消費者は電源によって電力商品を選択することができません。「はじめに」に書いた被爆二世の男性のように、原子力は絶対いやだという消費者の願いは達成できません。 日本では、自由化で新規参入業者の加入が促進されるとされています。しかし日本の場合、単に大手電力会社間で価格競争が激しくなるだけの自由化ではないかと思います。原子力で発電した電力が入っているのかいないのか、グリーン電力の割合はどうなのかなど、電気料金以外に消費者の知りたい電力の価値に関する情報が開示されません。それでは、大型施設で多量に発電できる既存の大手電力会社が有利になるだけです。


たとえば九州電力と関西電力の新料金メニューを見ると、夜間電力が割安になっています。その理由の一つが、原子力発電です。原発を再稼働させた九州電力と関西電力。関西電力は高浜原発を再稼働させたものの、裁判所の判決で小売り自由化直前に停止を余儀なくされました。原子力発電と料金体系の関係も「やっぱり」と思わざるを得ません。夜間電力と原子力発電の関係については、後の3章で詳しく述べます。


ドイツでは当初、自由化で価格競争が激化し、電気料金が下がると見られていました。しかしいざ蓋を開けてみると、電気料金は下がるどころか、上げるばかりでした。自由化で電力業界が再編され、大手ばかりが巨大化します。石油や石炭、ガスの化石燃料価格が高騰し、その変動が電気料金に大きな影響を与えます。


気になるのは、日本では電力の卸市場が小さく、卸で取引される電力量が非常に少ないことです。日本でも、日本卸電力取引所(JEPX)という電力を売買する卸売市場ができました。その取引市場で取引されている電力量は、全体の2%未満にすぎません。日本には、卸用に電力を発電して直接大手電力会社に供給している発電事業者があります。その他、自社プラント内に発電施設を有し、電力を大手電力会社に卸している企業もあります。これらの発電事業者は、電力を卸市場に出さずに企業間で直接取引しています。その取引関係というのもくせ者です。日本のように経済が縦に系列化している社会では、それが自由競争を妨げます。


この状況で、卸市場が成長できるのかどうか。卸市場が発展しないと、電力市場全体で価格競争が活性化しません。市場の末端である小売市場だけで、競争が激しくなるとしか思われません。電力会社の新料金メニューを見ると、電力そのものの価値と価格で競争するのではなく、携帯電話会社と提携するなど大手企業同士で連合しています。電力本来の価値とは関係ないサービスの付加価値で、消費者を引きつけようとしているとしか見えません。


消費者の中には、原発事故という大惨事を起こした東京電力はイヤだという人も多いと思います。たとえ東京電力との契約を解約しても、新しく契約を結んだ小売事業者が東京電力から電力を卸してもらっていないという保証はありません。企業間で卸電力をどう取引しているのか、その実態は消費者にはわかりません。


日本の電力小売りの自由化では、電力そのものに対する消費者の関心を逸らせようとしているとしか思えません。消費者は、価格と契約条件、その他付随のサービスから電力商品を選ぶしかありません。


電力商品の電源構成を知ることは、電力商品の基本情報を知ることです。それは、憲法で守られた基本的に知る権利です。それが保証されないなら、電力に対する消費者の主権が無視されています。消費者は依然として、電力会社の強制的な電力供給に従わなければなりません。それを自由化というなら、供給側にだけ都合のいい自由化です。


(2017年3月16日掲載)

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