2017年4月02日掲載 − HOME − エネルギー選択宣言一覧 − 7章記事
将来、再生可能エネルギーの負担をどう分配するのか

しかしここには、これからまだ議論しなければならない大きな問題があります。


ドイツにおいても、日本においても、再生可能エネルギーを普及させる基盤になっているのは、発電された電力の固定価格買い取り制度(FIT)です。FIT制度は、再生可能エネルギーへの投資を安定させるため、発電施設の稼働後20年間、再生可能エネルギーによって発電された電力を電力の市場価格より法的に高く設定された固定価格で買い取ることを規定します。その負担は、再生可能エネルギーで発電された電力ばかりでなく、すべての電力に分配して、消費者によって負担されます。


前述したプラスエネルギーハウスのようにソーラーパネルで自家発電した電力を自家消費すると、FIT制度による負担は発生しません。送電網も使わないので、電力を送電するために発生する託送料も負担しません。


ドイツでは、個人住宅ばかりでなく、集合住宅においても共同自家発電、共同自家消費が進んでいます。集合住宅の住民が共同でエネルギー協同組合を設置して、発電・熱供給設備を装備します。それを共同で管理、運用します。集合住宅におけるエネルギー自治です。ここでも、FIT制度の負担と託送料の負担は発生しません。


FIT制度は、再生可能エネルギーを普及させる手法として初期段階にはとても効果があります。投資を促進させるばかりでなく、設備需要の増大で設備コストと発電コストを下げていきます。普及に伴う学習効果で、発電コストはさらに下がります。技術開発も加速させます。一般消費者はそのために、共同でFITの負担を負っています。


ドイツの場合、電力消費の多い企業など大口需要家にはその負担が免除されています。その分、一般消費者の負担が増え、不公平な状態になっています。


自家発電と自家消費は、これからさらに増えていくものと予想されます。ただそうなると、消費者の連帯を基盤に再生可能エネルギーの負担を共同分配する原則が根元から崩壊します。発電コストが下がってきている現在、自家発電・自家消費者はいいとこだけを取って、その恩恵を持ち逃げしたといわれても過言ではありません。


これは、再生可能エネルギーが発展するにつれ、FIT制度から抜けていく消費者が増えるということです。このプロセスは、避けることのできない問題です。でも自家発電・自家消費だけで、産業部門を含めてすべての電力需要をカバーできるわけではありません。


再生可能エネルギーによる発電では、燃料費など限界費用が発生しません。そのため自由化された電力市場においては、消費電力に支払うだけのメカニズムでは、電源が何であれ、発電だけで利益を上げることができなくなります。すでに、ドイツではそうなっています。


再生可能エネルギーについては、FIT制度があるので、この問題から保護されています。かといって、永久にFIT制度に依存するわけにはいきません。再生可能エネルギーへの依存度が高くなるにつれ、発電する負担を共同かつ公平に分配する新しい枠組みを考えなければなりません。そうしないことには、新しい発電施設を建設することができません。それが、すでに述べた容量市場になるのかどうか、これからしっかり議論することになります。


ただここで、一つはっきりさせて置かなければならないことがあります。それは、だから再生可能エネルギーは高いということにはならないということです。火力発電にしろ、原子力発電にしろ、これまで発電コストだといわれるもの以外にたくさんの負担が共同で負担されてきました。それについては、1章の「発電コストの実態」で述べた通りです。


そのことを忘れてはなりません。


(2017年4月02日掲載)

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