2018年7月掲載 − 小さな革命 − J・Oのベルリン便り
アッハソー、2000年10月

東西ドイツの統一によって、ベルリンは3つのオペラハウスを所有することになった。国立オペラ、コーミッシェ・オーパー、ベルリン・ドイツオペラだ。前者2つが東ベルリンで、ドイツオペラは西ベルリンにある。


ドイツ統一条約は、統一によって東側の文化施設が閉鎖されてはならないと規定している。しかし実際には、旧東独で州や自治体が財政難で文化施設を維持することができないことから、オーケストラや劇場の閉鎖や合併が相次いでいる。ただベルリンの場合は、統一直後から3つのオペラハウス体制を改革する必要性が痛感されながらも、これまでの10年間、コーミッシェ・オーパー閉鎖説など様々な憶測や噂が氾濫するだけで、改革自体が具体化されることはなかった。


しかし、ベルリンの現シュトェルツル文化大臣はようやく、その具体案を提示した。その中心は何といっても、国立オペラとドイツ・オペラの合併だ。合併される新オペラは、直訳すると「ベルリン・オペラ舞台」と称される。


合併といっても、劇場とオーケストラ、コーラスは別々で、総監督をはじめとした管理・運営、制作部門が合併されるのだという。ただ改革案によると、ドイツオペラではワーグナーやリヒァルト・シュトラウスなどの大作を上演するのに対して、国立オペラではバロックや初期ロマン派まで、つまりせいぜいモーツァルトとベートーヴェンまでしか上演してはならないというのだ。その上、現在266人で構成される2つのオーケストラ団員を全体で77人削減するとしている。


オペラハウス毎の需要を考えると、国立オペラのオーケストラでは大編成のオーケストラが必要なワーグナーやシュトラウスを演奏しないので、国立オペラのオーケストラで団員が削減されるのは明らかだ。そうなると、同オーケストラはオペラ作品ばかりでなく、19世紀後半以降の交響曲の大作(たとえば、マーラー、ブルックナーなど)ももう演奏できなくなってしまう。


これは、表向きは合併だが、国立オペラの解体にほかならない。国立オペラのオーケストラは音からすると、ドイツオペラのオーケストラよりも伝統的なドイツ音楽に向いている。つまり、ワーグナーやシュトラウス向きだということだ。また昨シーズンには、ドイツのオペラハウスの中の最優秀オーケストラにも選ばれた。客入りも国立オペラが年間平均で80%を超えるのに対し、ドイツオペラは60%程度だ。それでも、文化大臣の改革案はドイツオペラを第一オペラに、国立オペラを第二オペラにすることを意図している。


オーケストラの音作りからすると、演奏するレパートリーを限定してしまうのは邪道の邪道。これでは、国立オペラのオーケストラどころか、2つのオーケストラが駄目になってしまう。


確かにベルリン市は、東西統一と首都機能の移転に伴う都市再開発のための莫大な出費と不景気による税収減などから極度の財政難に苦しんでいる。それだけに、3つのオペラハウスを十分に養っていけるほどの余裕はない。そのための合併案なのだが、それではなぜ、国立オペラが冷遇されるのか。


国立オペラの建物は痛みがひどく、すぐにでも閉鎖して改築したい状態。改築に2〜3年必要とされるなど、不利な条件が揃っている。しかしその背後には、ベルリン市政府内と政界が旧西ベルリンの政治家に牛耳られているという問題があることを忘れてはなるまい。国立オペラは、東西統一後のベルリン政界における権力構造の犠牲者であるといってもいい。


ヴァイツゼッカー元ドイツ大統領はこの問題で黙っていられなくなったのか、国立オペラの将来に希望がもてるようになることは旧西ベルリンの人間のためでもある、とある新聞に寄稿していた。見識のある発言だ。(J・O)


(2000年10月1日)
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