2018年7月掲載 − 小さな革命 − J・Oのベルリン便り
アッハソー、2001年1月

食べてもいいのか、食べないほうがいいのか、それが問題だ。


これは牛肉の話である。ドイツでもとうとう昨年11月にBSE(狂牛病)が発生した。1月16日までに14件のBSEが確認されたのだ。小生はもともと肉類をあまり食べない。そのため、BSEはそれほど気にならない。ただ、BSEの病原体は脳や脊髄、骨などに一番多いという。その骨粉が、豚の骨粉が一般的とはいうが、医薬品や化粧品、石鹸、ゼリーにも使用されている可能性がある。これまで安全とされてきた牛乳も最近になって、感染の可能性が指摘された。となると、牛乳、乳製品もダメか。


もう何もかもが危険だということか。。。ベルリンではBSE発生後、牛肉の売り上げが90%以上も減少したと聞いた。逆に、有機農法で飼育された食肉だけを販売する自然食品店では、長蛇の列ができている。マクドナルドでは、野菜バーガーや豆腐バーガーも出はじめたとか。


でも、ここはヨーロッパ。これまで消費者がパニックになったとは聞いたことがない。1月のアンケート調査でも「もう牛肉は食べない」とした人は32%程度。それに対し、「これまで通り牛肉を食べる」とした人は34%もいる。狩猟人を祖先とする人々の肉に対する執着は、相当に強い。


毒のあるものは元来うまい。肉やソーセージを焼いている匂いは、何とすばらしいことか。小生はつい毒はうまいと思ってしまうが、人間は毒の魔力には弱いらしい。ただ、BSEの毒はかなり強烈だ。感染するともう助からない。病原体とされるプリオンは蛋白質粒子。ウイルスのような生命体ではない。プリオンは、人間の脳がスポンジ状となるクロイツフェルト・ヤコブ病の病原体ともされる。BSEとクロイツフェルト・ヤコブ病の関連性がイギリスで指摘されたから大騒ぎとなった。


BSEに関してはまだわからないことが多すぎる。生命体ではないプリオンがどうして感染していくのか。今のところ感染経路は牛の肉骨粉と推定されてる。牛の肉骨粉が蛋白質源として牛の飼料に使用されていたために、イギリスでBSEに感染していた牛の残が飼料の一部としてヨーロッパ大陸に上陸してしまったのだ。


しかしだ。牛は元来草食動物ではないのか。となると、草食動物に動物性飼料を与えていたことになる。牛は動物性蛋白質で人工的に太らされ、人間の食欲を満たしていたのだ。もちろん、BSE拡大の背景には酪農保護のために情報を公開せず、BSEに真剣に取り組んでこなかった政治側の問題がある。しかし一番の原因は、営利目的から自然摂理を逸脱して酪農を産業化してきた点にあるのではないか。これは、人間の責任以外の何ものでもない。責任は本来責任ある者が取るべきだが、BSEの発生によってドイツでは40万頭の牛が焼却されようとしている。


ドイツ政府によると、今後は有機農業を振興するという。そのため、大型農場よりも小規模農場を優遇することになるのだそうだ。ただ旧東独では、東独時代の協同組合の名残からほとんどが大型農場ばかり。その旧東独では、これまでBSEは1件しか発生していない。BSE発生件数の半分は旧西独のバイエルン州で発生した。旧東独でBSEが少ない要因のひとつとして、農場が充分な土地を持っているので牧草が豊富にあり、その分動物性飼料を与える必要がなかったからではないかと推測されている。大きいことにも利点があったということだ。


小さいほうがいいのか、大きいほうがいいのか、それは問題ではなかった。問題はむしろ中味だ。(J・O)


(2001年1月1日)
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