2019年3月12日掲載 − ブラボー!
ヴィニツカヤ・ピアノコンサート

度肝を抜かれたような感じだった。


あれだけ難しいピアノ曲を集めたプログラムを何事もなくいとも簡単に弾きこなす。早いテンポで細かい音符が続いても、一つ一つの音が強く、鮮明だ。右手と左手を別人が動かしているかのようだ。人間の指が動いているとは信じられない技量。かといって、機械の演奏ではない。爆発するのではないかと思うくらいダイナミックな響きがあれば、悲しく、むなしい響きもある。スケールの大きな音楽が会場一杯に響き渡った。


ピアニスト、アンナ・ヴィニツカヤのことだ。ベルリン・フィルハーモニー主催で、同小ホールにおいて続いているピアノコンサートに招聘された。これが、ベルリン・フィルハーモニー・デビューだった。今シーズンはその他にも、マウリツィオ・ポリーニ、シフ・アンドラーシュ、ラン・ランなどのピアノコンサートが予定されている。巨匠たちと肩を並べた格好だ。


演奏されたのは、前半にプロコフィエフの《ピアノ・ソナタ第4番》と、ドビュッシーの《前奏曲集》から5作品と《喜びの島》。後半はショパンの《24の前奏曲》全曲だ。いずれも、ピアニストでもあった作曲家の難曲ばかり。とても意欲的なプログラムだといっていい。


プロコフィエフの《ピアノ・ソナタ第4番》は、プロコフィエフにしてはロマンチックなところのある作品。ヴィニツカヤは、第1楽章と第2楽章ではその辺をうまく引き出していた。そして第3楽章になると、彼女の音楽のダイナミックなところの見せ所となる。


ドビュッシーの《前奏曲集》では、エレジー(第1巻第6曲)からはじめて花火(第2巻第12曲)で終わるという選曲。エレジーでは、ピアノから出てくる響きから悲しくて、冷たい感じのする景色が思い浮かぶ。最後は、夜空にバチバチ、ドカーンと炸裂する花火が目の前に広がってくるかのような演奏。高度な技巧がない限り、とてもこうはいかない。


そして、ハイライトはショパンの《24の前奏曲》だ。一つ一つの作品はとても短いが、ショパンの作曲したピアノ独奏曲のあやゆる面が写し出されているような作品集。ヴィニツカヤの洗練された技量を満喫するにはピッタリの作品ではないだろうか。ヴィニツカヤは、作品毎に変化する調性やテンポ、感情の移り変わりを見事に描き分けていた。圧巻は、最後の第24番。これほど強烈で、厚みのある演奏はめったに体験できない。全体で40分ほどの作品だが、まったく退屈させなかった。


一杯に埋まった会場からは、「ブラボー」が飛び交っていた。


2017年10月、ベルリンから
ふくもとまさお

(日本でのヴィニツカヤ・コンサートプログラム(2018年1月)に掲載)
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