2023年10月17日掲載 − HOME − ぶらぼー! − オペラ
オペラと鐘

ぼくの自宅からは、教会の鐘が鳴る音がよく聞こえる。教会の鐘は時計代わりであり、葬儀のある時には、鐘が長い間なり続ける。


教会の鐘はよく、三連符と二連符、それに一連符で響いているだろうか。一連符ということばはないと思うが、音を均等に三等分したのが三連符、二等分したのが二連符。分割しないのが一連符ということだ。


一連符は、鐘の音全体を支える基盤になる。


鐘の音は、オペラ作品でも耳にする。たとえばヴァグナーのオペラ⟪パルジファル⟫が、一番目立つのではないだろうか。礼拝堂での聖杯の儀式がはじまる前に、鐘が鳴る。この音は、とても重厚だ。


これは、宗教的なものであると同時に、鐘の音は騎士たちの権力を誇示するものでもある。


しかしオペラ作品においては、ヴァグナーのオペラ⟪パルジファル⟫のように、いつも鐘の音がはっきり聞こえるわけではない。オーケストラの音の背景として使われることも多い。その場合、鐘の音はオーケストラの音に隠れ、よく聞こえないことも多い。


しかし鐘が使われていることには、何かの意味があるはずだ。その音を聴衆の耳によく聞こえるようにするかどうかは、指揮者と演出家の解釈次第でもある。


ヴァグナーばかりでなく、ヴェルディやマイアーベーアなどの作曲家は、作品の中で鐘をよく使っている。


独ヴュルツブルク大の音楽民族学教授ネコムク・リーヴァさんがこれまで数えたところでは、200以上のオペラ作品に鐘の音が使われているという。

鐘といえば、カリヨンという鐘の楽器がある。音色をしっかりと調律した鐘を複数組み合わせ、それを鍵盤を使って演奏する。メロディばかりでなく、和声の響きもすばらしい。


日本では、組み鐘ともいわれるらしい。そのカリヨンが、わが家から歩いていけるところにある。その近くを通ると、カリヨンが演奏されているのが聞こえる。


ぼくは、その響きと音色が好きだ。


さてオペラに戻ろう。


モーツァルトのオペラ⟪魔笛⟫にも、鐘が使われている。鐘というよりは、鈴といったほうがいいかもしれない。道化役のパパゲーノの持つ魔法の鈴のことだ。


魔法の鈴の音は、シリアスなオペラ・セリアから喜劇的なオペラ・コミックに変わる起点になる。


パパゲーノが魔法の鈴を鳴らすと、動物や奴隷たちが浮かれて陽気になる。魔法の鈴は、それだけ魔法の力を持っている。3人の童子に勧められて、パパゲーノが魔法の鈴を鳴らす。すると、老婆から若い女に変わったパパゲーナが現れ、2人はこどもをたくさんつくるといって喜びまわる。


鈴となった鐘に、性的な意味が持たされているともいえる。


こうしてオペラ作品において鐘の音に注目しながら、オペラを聴くのもおもしろい。オペラの背景に隠れた意味合いがわかるようになる。それとともに、オペラ作品をより深く理解できるようになるのではないだろうか。


(2023年10月17日、まさお)
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関連サイト:
ベルリンのカリヨンのサイト(ドイツ語)。いつ演奏されるかの案内もある
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