年越しを前に、3つの「ジズベスターコンサート」がテレビ中継された。
テレビ放送を見た順に挙げると、クリスティアン・ティーレマン指揮によるシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)とアラン・ギルバート指揮によるNDRエルプフィルハーモニー交響楽団(NDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団)、キリル・ペトレンコ指揮によるベルリン・フィル(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)のコンサートだ。
まず、ティーレマン指揮によるシュターツカペレ・ドレスデンのコンサートから。演奏されたのは、ベートーヴェンの第9だった。
この演奏は、数分見ただけでもう聞いておれなかった。すぐにテレビのスイッチを切った。
ここのところ、ティーレマン指揮でいい演奏を聞いたことがない。これもそうだった。
指揮ぶりが横柄というか、動きが指揮者の動きになっていない。それでは、音楽は引き出せない。いいコンサートになるはずがない。
過去に素晴らしい演奏をしてきたティーレマンだけに、今の状況はとても残念だ。むしろそれを通り越して、悲惨な状況だといってもいいくらいだ。
スランプなのか。それなら、早く立ち直ってくれることを願いたい。
次に、ハンブルクであったギルバート指揮によるNDRエルプフィルハーモニー交響楽団のコンサート。演奏されたのは、リヒァルト・シュトラウスの⟪「ばらの騎士」組曲⟫やモーリス・ラヴェルの⟪ラ・ヴァルス⟫など。
ギルバートは、とてもいい指揮者だと思う。ただ残念なのは、音符毎に音の最後の最後まで完全にはコントロールされていないことだ。音楽がきちっと演奏され、優等生すぎるとも感じる。それが、音楽を少しつまらなくさせている。
でもこのコンサートは、聞いて十分に耳の肥やしになるものだった。
圧巻は、ペトレンコ指揮によるベルリン・フィルのコンサートだ。ヴェルディやマスカーニなどのイタリアオペラ作品からの抜粋と、それにプロコフィエフとチャイコフスキーの作品が加わる。カラフルなガラコンサートだった。
スターテノール歌手ヨーナス・カウフマンとの共演だが、主役は指揮のペトレンコといってもいい。
ベルリン・フィルの首席指揮者・芸術監督に就任して、3年余りになるペトレンコ。就任後最初のコンサートとなったベルリン・ブランデンブルク門前でのベートーヴェンの第9の演奏に比べると、オーケストラを完全に自分のものにしている。指揮も、とてもよくなったと思う。
ギルバートと異なり、ペトレンコの音は音符の音毎に最後まで音がしっかりとし、自分の音楽が浸透している。テーマやテンポが変わる時のコントラストもはっきりし、音楽にメリハリがある。
ジルベスターコンサートはある意味で、お祭りだ。商業色の強いコンサートでもある。その点で、ジルベスターコンサートの質はいつも、それほど高くはない。
しかしこの時のベルリン・フィルとペトレンコは、お祭り騒ぎにおいても、絶品の音楽を伝えてくれたと思う。ジルベスターコンサートにしては、十分に音楽を満喫できるものだった。
そのため元旦に、ヴィーン・フィルのニューイアーコンサートを聞きたいとは思わなかった。
ベルリン・フィルとペトレンコとの間には、まだまだ伸びしろが感じられる。これからの両者の成長が楽しみだ。
(2023年1月04日、まさお) |