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原子力ルネッサンスの幻想と脱原発へのビジョン  2/4
(2008年11月2日)

すでに述べたように、ヨーロッパでは、原子炉の新設がたくさん計画されています。そうしたことから、ヨーロッパで原子力のルネッサンスが到来かともいわれています。


ただ、ここで注意しなければならないのは、現在計画されている原子炉の多くが、廃炉される原子炉に代わって建設されるもので、いわば原子力の代替として原子力が選択されているということです。そのため、原子炉の基数自体がそれほど多くなるわけではありません。今後は、原子炉1基の出力が1000MW(100万kW)以上の大型のものが計画の主流になりますので、むしろ原子炉の基数は減っても、発電容量が増えていくことも考えられます。


しかしここでは、一番肝心な問題が見逃されています。


各国がたくさんの原子炉を建設したいと計画したところで、現在世界中に、原子炉を建設できるベンダーは何社あるでしょうか。


現在、原子炉を建設できるメインのメーカは、GE(米国)、日立(日本)、ウェスティングハウス(米国)/東芝(日本)、三菱重工(日本)、アレバ(フランス)、アトムストロイエクスポルト(ロシア)の6社しかありません。つまり、原子炉を建設したいと計画したところで、それを造る側の容量には限界があるということです。


米国で原子炉新設計画が続々と発表され、中国,インドでも新設計画があります。さらに、既存原子炉の寿命を延ばすための改造工事も増えていきます。


原子炉の建設は、高度で精密な技術とノウハウの蓄積が要求されますので、新規業者が簡単に参入できる分野ではありません。


そうしたことから、ヨーロッパではすでに、原子炉の新設では各国間で激しいメーカの取り合い状態になり、計画しても想定した通りには建設できなくなる可能性が高いとも予測されています。


もう一つの大きな問題は、原子炉を建設するのにたいへん長い年月を要するということです。建設には、建設地の選定、環境アセスメント、設計/許認可、建設/許認可、試運転/運転許認可などの過程を経る必要があります。そのため、原子炉を運転できるようになるまでには、短くても10年から15年の年月が必要です。それに、地元住民の反対や技術的な問題が重なると、もっと長い年月が要求されます。


それに対して、鋼鉄,セメントなど建設に必要な資材が需要の増大で今後ますます高騰していくことが予想されます。そのため、建設期間が長くなればなるほど、最後に建設費が大幅に膨れ上がってしまうという大きな投資リスクが伴います。


たとえば、加圧水型炉の場合、ウェスティングハウス社は2004年時点で建設費は1kW当たり1200ユーロ(日本円で約20万円相当)としていました。現在、それが2000ユーロ近くにもなっているといわれます。


ドイツでは現在すでに、石炭型火力発電所を建設するにも、建設費の高騰で計画が中止されたりしています。


原子力発電所を建設するには莫大な投資が必要です。現在ヨーロッパで計画されている原子炉の多くは、外資など投資家から資金援助を得て建設されるものがほとんどです。それだけに、建設費が高騰するというリスクは、投資家にとって今後、益々大きな不確定要素になります。


こうした条件を考えると、原子炉の新設計画はリスクが大きく、計画倒れになる可能性が高い。「原子力ルネッサンス」はいずれ、幻想に過ぎなかったことに気付くことになると思います。


国際エネルギー機関(IEA)はG8のために作成した最新のスタディで、2050年までに二酸化炭素の排出量を現在のレベルから半減させるためには、原子炉を1344基建設する必要があるといっていますが、これは、とんでもない夢物語であることがわかると思います。


(2008年11月2日)
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