バルト三国の一つリトアニアで、新しい原発の建設の是非を問う国民投票が2012年10月14日に行われ、反対が多数を占めた。新原発の建設(ヴィサギナス原発)は事実上、日本の日立が受注している。国民投票には法的な拘束力はないが、今後のリトアニアの原発政策に影響を及ぼすのは間違いない。
リトアニアには、旧ソ連時代に建設されたチェルノブイリ事故原子炉と同型の原子炉2基が稼働していた(イグナリナ原発)。ただ、1基当りの出力は事故原子炉の1.5倍(1500MW)もあった。
チェルノブイリ事故後、制御棒の装填時間を短縮するなどの改造工事が日本政府の支援で行われた。リトアニアがEUに加盟する時には、この原子炉2基の廃炉が条件とされ、1号機が2004年末に、2号機が2009年末に停止した。
それに伴い、リトアニアは電力輸出国から輸入国に転じ、エネルギーのロシア依存が大幅に高まった。
リトアニアは旧ソ連領とはいえ、本来母国語はロシア語ではない。市民にはソ連に占領されたとの意識が強く、今もロシアに対する反感のたいへん強い国だ。ぼくが行った時も、経済エネルギー省の役人はロシア依存は絶対いや、ロシア製の原子炉も買わないと豪語していた。
新原発は、イグナリナ原発の隣に建設される計画だ。だが、このエリアは何を隠そう、大きな湖のある国立公園なのだ。冷却水はこの湖から取水し、湖に排水する。そのため、湖の水量、水温調整をする特別のダムまで建設されていた。このダムは今、リトアニア領ではないのだが、特別に原発職員が派遣されているということだった。
東欧諸国では民主化前から、公害の排出源だったたいへん老朽化した石炭火力発電所がまだたくさん稼働している。そのため、一般市民には依然として火力発電に対する嫌悪がたいへん強く残っている。
ポーランドでは風力が増えているとはいうものの、東欧諸国には、国と市民に再生可能エネルギーを増やしていくだけの経済力がない。
それに対して、原子力となると工業先進国がいろいろ資金援助してくれるので、そこにうま味がある。
日立が受注する可能性の高いリトアニアの原発にしても、国際協力銀行など日本の政府金融機関がどう絡んでいるかのかが問題だ。
こうした諸々の状況を考えると、リトアニアで市民が原発建設にノーといったのは、たいへんな重みがあると思う。
(2013年7月08日、ふくもと まさお。まず2012年10月105日エネルギー政策MLに投稿) |