すでに何回も指摘したように、廃炉においては、年間線量10マイクロシーベルトをベースとしたクリアランス基準さえ下回れば、排出された廃棄物は放射性廃棄物ではなくなる。
それに対して前回書いたように、廃炉現場に出入りする職員などは厳重に測定され、放射性物質が外部に拡散されるのを防いでいる。
測定を厳重にする理由は、前回説明した。でもそうなると、なぜクリアランス基準が設けられているのかという疑問が次に出る。
放射性物質で汚染されているのだから、すべて放射性廃棄物のまま処分すればいいではないか。そうすれば、クリアランス基準など不要ではないか。
この疑問に対して、まともに答えた説明はこれまで見たことがない。でも理由は、はっきりしている。
廃炉によって排出される放射性廃棄物の物量を減らしたいからだ。
クリアランス基準があることによって、廃炉によって排出される放射性廃棄物の割合は、排出される廃棄物総量の5%前後になるという。クリアランス基準のおかげで、90%以上が一般廃棄物ないし産業廃棄物となって、リサイクルする可能性も生まれる。
廃炉によって排出される廃棄物は、使用済み核燃料を除くと、そのほとんどが低中レベル放射性廃棄物だ。とはいえ、放射性廃棄物は厳重な管理の下で処分されなければならない。それをすべて放射性廃棄物として処分していては、最終処分に莫大なスペースが必要となる。さらに、膨大なコストが発生する。
それを抑えるのが、クリアランス基準だといってもいい。
クリアランス基準に補足してよく目にするのは、「放射性廃棄物は、廃炉で排出される全体量の5%にしかなりません」という謳い文句だ。
これだけ見ると、放射性廃棄物が少なくてより安全ではないかと思ってしまう。
でもそこには、クリアランス基準のおかげで、放射性物質が一般廃棄物や産業廃棄物に混じって拡散されるという現実があることも知ってほしい。
日本では、フクシマ原発事故で発生した汚染土壌を再利用することが問題となっている。そこでも、年間線量10マイクロシーベルトという廃炉と同じクリアランス基準が適用される。
(2019年4月30日) |