2022年3月09日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
ウクライナ原発の制圧を考える

今日2022年3月09日、チェルノブイリ原発で外部電源が喪失したとのニュースが流れた。ウクライナのクレバ外相は、使用済み核燃料を冷却できず、放射能漏れの危険があると、ツイッターで警告した。


ぼくは、耳を疑った。チェルノブイリ原発では2000年までに、すべての原子炉が停止されたはずだ。それからもう、20年以上も経っている。


その状況では、使用済み核燃料を冷やすためには、もう電気など必要ないはずだ。水さえあればいい。今もまだ電気が必要な状態なら、何か異常な状態で使用済み核燃料が保管されていなればならない。


そんなことは、原子力に関する国際基準では許されない。すべての原子力関連施設内には通常、、国際原子力機関(IAEA)の監視カメラが設置されている。ウクライナも例外ではない。ウクライナがチェルノブイリ原発において、国際基準を守っていないはずがない。


それなら電源喪失状態でも、放射能漏れの心配はないはずだ。それなのに、クレバ外相はなぜ、フェイクニュースを流すのか。


それは、ある意味で悲鳴でもあるのだと思う。西側諸国のみなさん、ウクライナは大変な状況に置かれているので、何とか助けてくださいと、嘆願している。西側社会をより感情的にさせ、ウクライナへの支援を西側の政治に迫る戦略なのだと思う。


その気持ちは、痛いほどわかる。でも今、西側社会がウクライナを軍事的に助けるわけにはいかない。そうなると、第三次世界大戦へと進むのは間違いない。今のところ(!)、北大西洋条約機構(NATO)は絶対に、その危険を犯さないと思う。


西側諸国は、ウクライナ側の通信の暗号化やロシア側の通信の防諜など、表に出ないところでウクライナを支援しているのは間違いない。そうでないと、ウクライナのゼレンスキー大統領はネット上で、あれほど頻繁にはビデオメッセージを発信できないと思う。


ウクライナの旗電飾
ベルリンのブランデンブルク門は、ウクライナと連帯するため、ウクライナ国旗の色でライトアップされている

むしろ問題は、なぜロシアが原発を攻撃して、制圧するのかだ。


プーチン大統領はよく、ウクライナが原発からの使用済み核燃料を使って、核で攻撃しようとしていると批判してきた。確かに、チェルノブイリ原発の原子炉は、核兵器用に開発された原子炉の改良型。その点で、チェルノブイリ原発が最初に制圧されたのは理解できないこともない。


ただそれだけでは、加圧水型炉のあるヨーロッパ最大級のザポリージャ原発までを制圧したのは理解できない。稼働中の原発から使用済み核燃料を持ち出しても、そう簡単には『核兵器』として使えない。


原子力依存度の高いウクライナのエネルギー源を確保して、ウクライナを『兵糧攻め』にしようとしているのではないかとの推測もある。


ロシアにはウクライナの原発を制圧することに対して、何らかの戦略があるのだろうか。


チェルノブイリ原発は、ベラルーシ南部のすぐ下にある。ウクライナの首都キエフに侵攻する通り道だ。ザポリージャ原発は、ロシアが独立を承認したウクライナ東部の西側に位置し、ウクライナ東部からウクライナ西部に侵攻する途中にある。


こうして見ると、ロシア軍が侵攻する途中に、原発があったともいえる。


ぼくはこれ以上、深読みはしたくない。それは戦争状態では、戦場で何か起こるかわからないからだ。そういう状態において、戦略を深読みする意味はない。たとえ原発に向けて砲撃してはならないと命令が出ていても、戦場でその命令を守れるとは限らない。戦争とは、そういうものだ。


今のところ、ロシア軍が全面的に空爆する気配は見られない。それだけでも、まだ救いだ。


いずれにせよ、戦争になると、原発の存在はたいへんな脅威となる。戦争では、何が起こってもおかしくない。いつ何時、原発、特に原子炉に爆弾が命中するかわからない。誤射だって、いくらでも考えられる。


西側諸国が、これほどの戦争状態にさらされるのは、戦後75年以上経って、はじめてだと思う。ぼくたちは、平和に慣れてしまっていたのだ。だから、こういう事態になることに対して、何も準備できていなかった。


ぼくたちは今、まったく無防備な状態で、戦争と原発の恐ろしさに直面している。


(2022年3月09日)
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関連サイト:
Update 15 - IAEA Director General Statement on Situation in Ukuraine(英語、国際原子力機関(IAEA)事務局長のウクライナ情勢声明)
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