2023年4月11日掲載 − HOME − 脱原発一覧 − 記事
原発の町から普通の町に

今年2023年4月15日は、記念すべき日となる。その日で、ドイツにおいてまだ稼働している3基の原子炉が最終的に停止するからだ。それとともに、ドイツで稼働する商用炉はなくなる。


一般的にはそれで、ドイツの脱原発が完結する。しかしドイツには、核燃料棒からなる燃料集合体を製造する工場がある。研究炉も動いている。原子力施設がこれで、すべて停止するわけではない。


さらに今後、商用炉の廃炉と放射性廃棄物の最終処分にまだまだ時間がかかる。ドイツは、使用済み核燃料などの高レベル放射性廃棄物を最終処分する期間を100万年と規定している。最終的に原発による放射能の汚染から解放されるには、まだまだ気の遠くなる時間がかかる。


この問題とは別に、これまで原発が立地していた自治体はどうなるのかも気になるところ。原発の立地とともに原発の町となり、たくさんの補助と資金を得てきたのではないか。日本人から見ると、そう思われても仕方がない。日本ではこれでもかと、原発の町に資金が流れるからだ。


それに対してドイツの原発立地自治体には、原発の運転に伴う利益に対して課税される地方税である営業税の税収しか入らない。ただ原発は一種の巨大産業だ。営業税収だけだといっても、地方自治体にとっては莫大な収入源となる。


ただ大きな自動車製造工場が小さな自治体に誘致されても、同じことがいえる。その点で、原発だからと必ずしも優遇されてきたわけではない。この点は日本とは事情が違うので、はっきりさせておきたい。


2011年、日本のフクシマ原発事故を機にドイツでは、1980年以前に稼働した原子炉8基が停止された。それは、フクシマ原発事故に起因する政治決定だった。その決定が下される前、停止対象となる原子炉の1つであるフィリップスブルク原発1号機のあるドイツ南西部の町フィリップスブルクの町長と話したことがある。


その時町長は、確かに原発が止まるのは町の財政上痛手だが、止めるなら早く止めると決断してもらったほうがありがたいと話した。町には原発以外にも産業があり、新しい産業を誘致して町の豊かさを維持、増大させることを考えればいいだけの話なのだからと、将来に対して楽観的にいわれた。


これには、ぼくはちょっと戸惑った。もっともな論理だが、そんなに簡単に『金のなる木』を諦められることに感心したことを覚えている。


ネッカーヴェストハイム原発
ドイツ南西部にあるネッカーヴェストハイム原発。写真は、ネッカーヴェストハイムの町役場前の道路から撮影した。向かって左側のドームが、2023年4月15日に最終停止する2号機。右側のドームは1号機で、2011年に最終停止した。現在、廃炉作業が行われている。

今回は、最終停止する3基の原子炉のうちの1つネッカーヴェストハイム原発2号機の立地するドイツ南西部の町ネッカーヴェストハイムの町長ヨッヒェン・ヴィンクラーさんの話を聞くことができた。


ネッカーヴェストハイム町の人口は約4000人。日本でいえば村のようなものだ。その小さな町に原発があるのだから、原発から得る営業税収は、人口約4000人の小自治体としてはとてつもなく大きな収入源となる。


町では2011年に、前述したフィリップスブルクと同じように、1号機が停止した。


ヴィンクラー町長は、原発停止は町の財政にとって大きな痛手だとしながらも、悲観的ではなかった。2号機が停止しても廃炉作業で従業員がまだ残るので、営業税収が停止とともにすぐにゼロになるのではないという。原発で働く従業員の数に応じて税収が減っていく。廃炉が終了するまでにはまだ時間がかかるので、それまでに町の財政を再建する準備をしているといった。


支出をできるだけ抑え、学校やスポーツ施設、その他の町のインフラを維持していけるようになればいい。その結果、ネッカーヴェストハイムがドイツの平均的な自治体のレベルを保持できるようにするのが、今後の課題だという。


ヴィンクラー町長の口ぶりからすれば、原発の町は支出を抑える努力を必要とせず、原発からのお金によって財政が『過剰状態』だったのだと思う。それに対して原発の灯が消えるととともに、財政節約を徹底しなければならなくなる。それは原発のない自治体では、当たり前の話なのではないのか。


ぼくはヴィンクラー町長の話を聞いていて、原発の立地によって過剰な豊かさを得てきた原発の町が普通の町に戻るのだと思った。


日本で原発の立地する自治体は、ドイツ以上に原発のお金で過剰な状態にある。それだから余計、原発の停止に反対する。自治体として健全な財政を維持してくことを忘れ、補助漬けから抜け出せない状態にさせられている。だから、原発という『金のなる木』を失うのが怖い。


でも他の自治体のことを考えれば、国の補助を受けるために多大な努力をしながらも、財政規律を維持していくのは、自治体として当たり前の話なのだ。原発という甘い汁を吸い続けて、自治体の目の先の豊かさだけを追求する。原発から離れた自治体の未来像までは考えない。いや、考えられない。どちらが、自治体の将来のためになるのか。聞いてみたくなる。


日本の原発の町は、補助漬けで麻痺してしまっている。日本の原発の町はもう、普通の自治体には戻れないのだと思う。そういう状態にさせられてしまったのだ。


ぼくは最後にネッカーヴェストハイムのヴィンクラー町長に、原発の跡地をどうしようと思っているかと聞いた。緑地にするのかとも。


町長はすぐに、「工業団地にしたい」といった。原発敷地周辺には、道路などインフラが整備されているので、それを効果的に利用するのだという。


ぼくは、健全に考えているなあと思った。日本の原発の町にも目を覚まして、こういう健全さを取り戻してほしいのだが。。。


(2023年4月11日)
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関連サイト:
ネッカーヴェストハイム町の公式サイト(ドイツ語)
電力会社によるネッカーヴェストハイム原発のページ(ドイツ語)
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