プラスエネルギーハウスのコンセプトは一戸建て住宅ばかりでなく、集合住宅でも試験されています。プラスエネルギーハウス35のモデルハウスのうち、ドイツ西部フランクフルトで74世帯からなるプラスエネルギー集合住宅が2015年7月に完成しました。
集合住宅は同じように、屋根と外壁にソーラーパネルが設置され、換気装置、蓄電池などを装備しています。
ドイツでは、地域単位で再生可能エネルギーの100%化とプラスエネルギー化を進める地域も増えてきました。
ドイツ中部ヘッセン州のヴォルフハーゲンは、人口約1万3000人の町です。町議会が2008年、町の再生可能エネルギー100%化を決議しました。町の自治体電力公社が、再生可能エネルギーで発電されたグリーン電力の供給をはじめます。市民が組合員となる市民エネルギー組合を設立。市民の資金でソーラーパーク1基と、4基の風車からなる風力パークが建設されました。市民組合は自治体電力公社の株25%を保有し、市民が自治体電力公社の発電と配電ビジネスで得られる利益の一部を共有できるようにしました。
その他、電力公社は町内の街灯をLED化するなどして省エネ対策を講じ、電気自動車も積極的に導入しています。
2015年、太陽光と風力、バイオガスの再生可能エネルギーによって町の年間電力需要を6%上回るグリーン電力を発電しました。電力消費の約55%が一般家庭、残りの45%が産業部門と小売店やレストランなどの民生業務部門によるものです。
ヴォルフハーゲンでは、ソーラーパーク、風力パーク、バイオガス発電施設をネットワーク化させ、一つの発電所のように機能させています。いわゆるバーチャル発電所です。日中に強い太陽光発電、夜間に強い風力発電をメインにして、電力の供給不足が心配される場合に備えて、素早く対応できるバイオガス発電を加えます。電源をミックスすることで、バーチャル発電所全体として発電量の変動が小さくなります。それによって、安定供給が可能となります。
バーチャル発電所の構成(イラスト:たなかゆう)
今後さらに、一般家庭にスマートメーターと家庭内の電力消費を最適化する装置を導入し、電力供給システムを総合的にデジタル化させる予定です。それによって、電力公社側が天候に左右される発電量の予測状況から消費者側の電力需要をコントロールできるようにします。たとえばすでに述べたように、洗濯機などの家電製品の稼働時間帯を世帯別にずらします。消費者がタブレットパソコンを使って、遠隔操作で家電製品をコントロールできるようにすることも計画されています。
ヴォルフハーゲンの自治体電力公社は、地元北ヘッセン地方の自治体電力公社6社と北ヘッセン連合というネットワークを形成しています。6社は共同で、地元のカッセル大学やその他の研究機関と協力し、北ヘッセン地方全体の再生可能エネルギー化を進めています。
同連合には、北ヘッセン地方の最大都市カッセル市も加入しています。カッセル市の人口は約20万人。カッセル都市電力公社は、ドイツでも地域再生可能エネルギー化に積極的に取り組んできた都市電力公社の一つです。カッセル市では2025年までに、電力需要の最低60%を再生可能エネルギーでカバーできるようになると見られます。80%も達成不可能ではないとされます。
ドイツでの事例からもわかるように、一般住宅のプラスエネルギー化をはじめとして、それを集合住宅に、さらに地域全体へと、小さい単位からより広い地域に拡大させていくのが、再生可能エネルギー化を進める最も適切な手法だといえます。
(2017年4月02日掲載)
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