この動画を見ると、ハルツ山地で森林が枯れているのがよくわかると思う。悲惨な状態だといってもいい。
森林に被害を与えるている直接の原因は、キクイムシだ。キクイムシは木を食べるのが好きな昆虫。正確にいうと、木のデンプンを食べる。木の皮の内側で、キクイムシの幼虫が乾燥した木のデンプンを食べて、木に害を与える。
幼虫の成長期間は10カ月と長い。成虫が産卵するためには、木部にある管状の組織が縦につながった導管が適している。そのため木は、キクイムシが繁殖するには最も適した場といってもいい。
木の内部が食い荒らされるため、被害を見つけにくいのも問題だ。
キクイムシは南米などから輸入された木や合板の内部に卵や幼虫が入っていたことから、ドイツに持ち込まれたとみられる。
なぜ、キクイムシがハルツ山地で繁殖して、これほどの被害を引き起こしたのか。
それには大きく、2つの要因があるとみられる。
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枯れた木々の間から新しい小木が出てきている |
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一つは、気候変動による温暖化だ。温暖化で森林が乾燥し、キクイムシが繁殖しやすい状況となっている。さらに森林の乾燥によって世界各地でみられるように、山火事も起こりやすくなっている。
温暖化に伴い、冬が十分に寒くならなくなっているのも問題だ。その結果害虫が冬期に死なないので、害虫の繁殖がより加速され、被害が大きくなる。この問題は、ベルリン市内の木が枯れる重大な要因にもなっている。
もう一つの問題は、戦前の植林政策に由来する。
産業革命とともに燃料の需要が急激に増大し、木が燃料として使われる。木の伐採された森林では、成長の早いモニの木などの針葉樹が盛んに植林されるようになった。
しかしハルツ山地は元々、広葉樹の地域だった。その結果、ハルツ山地の植生が変わるとともに、植生が単一化される。それが害虫に対する森林の抵抗力を低下させ、森林は枯れるばかりとなる。
森林が枯れる直接の原因はキクイムシによるものだが、キクイムシによる被害は人間に責任があるといっていい。
それではハルツ山地において、森林をどう再生させようとしているのか。
林業が行われている地域では、森林をいかに持続可能にできるかを考えながら、植林されている。そのため、植生を単一化しないで、いくつもの種類の木が植林され、植生を多様化させている。
それに対して、林業が行われていない国立公園地域では植林されない。
枯れた森林に人工的に人間の手を加えるのではなく、自然の力で森林の植生が多様化し、森林が再生するよう管理されている。森林の再生には時間がかかるが、自然の力によって森林を再生させたほうが、害虫に強い森林になると考えられている。
一部の枯れた森林ではすでに、前に挙げた写真のように新しい木が自然に生えだしているところも見られた。
人間が破壊したものを再生するには、長い目で見て自然に委ねるしかないということでもある。
(2025年10月30日)
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