ここ数年来、ドイツ東部で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭している。
今年2019年にあった欧州議会選挙や、ドイツ東部のザクセン州とブランデンブルク州、テューリンゲン州の3つの州議会選挙において、AfDは25%前後の得票率を獲得した。欧州議会選挙において、AfDはザクセン州で第1党にまでなっている。
これら選挙結果を詳細に分析すると、地域によっては極右政党が50%を超える得票率を得ているところもある。また、若い有権者からの得票が多いのも特徴だ。
もう一つ顕著なことは、選挙において投票率が上がっていること。だが投票率が上がっても、前回選挙で投票しなかった無投票層の票は、AfDに一番多く流れている。
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欧州選挙でのAfDの選挙ポスター 「赤(左派)なしに社会的に」(上)、「EU税阻止」(下)とある (ザクセン州ドレスデンで撮影) |
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2019年の欧州議会選挙や2017年のドイツ連邦議会選挙を見ると、AfDはドイツ西部においてドイツ東部より格段に多くの票を獲得した。しかし得票率で見ると、ドイツ東部での得票率がドイツ西部の得票率の倍以上となる。それは、ドイツ西部で人口が多いからだ。
ドイツ東部における得票率の高さは、AfD票がドイツ東部において有権者の各層に広がっているということを示している。
ドイツ東部で右傾化が激しいのは、なぜか。
ドイツでは、これまでいろいろ議論されてきた。抗議票が流れているからとか、民主主義がまだ定着していないからとか、いろいろ憶測されている。ドイツ東部で、市民が自分たちは二流市民だと思っていることもたいへん大きな問題である。
これまで連載してきたことを読んでもらうとわかると思うが、ドイツ東部は、西側の資本主義的な見方から、ドイツ西部の思うように統一されてきた。そこでは、東ドイツの社会構造や生活、個々の経歴はまったく無視された。
西側社会においてもなかったような形で、セーフティネットもはらずに、ドイツ東部において純粋で、極端なネオリペラリズムが強行された。
それが、民主主義だろうか。
そこには、民主主義も、人の尊厳を配慮する政策もなかった。ドイツ西側の利益が優先され、ドイツ東部市民が犠牲になったといってもいい。
ドイツ東部市民は、一夜にして社会主義から資本主義に放り投げられた。その変化の大きさと、たいへんさは、ドイツ西部市民にはいまだに理解されていない。
東ドイツ社会は、もともとかなり保守的な社会だった。ただどの社会にも、それよりも右寄りの市民層がいるのも確かだ。ただ、その社会構成と難民問題だけでは、AfDの台頭は説明できない。AfD支持層が社会の各層に広がっているからだ。
若い層では、優秀な人材がドイツ東部を離れ、西部に移住してしまっている。その分、ドイツ東部には統一の変化についていけず、取り残された若者たちが多い。若者たちは、親から統一後の不満や失望を日々聞かされていたのも間違いないと思う。
その意味で、ドイツ東部では各層に統一に対する不満や失望が充満している。また、地方にいけばいくほど、統一において取り残された過疎地域が多い。
ドイツ西部で低迷していた極右派組織には、統一はドイツで勢力を拡大する絶好のチャンスだった。極右派組織の重点がドイツ東部に移る。ドイツ東部で取り残された市民の気持ちを汲み取り、うまく票につなげていった。他の政党の手の届かない過疎地域にまで、AfDはしっかりと入り込んでいる。
ドイツ東部市民は、極右政党だからAfDに投票しているのではないと思う。自分たちの気持ちのわかる政党、自分たちの理解者、世話人としてAfDに投票している。
だから、「極右政党なのになぜ」と問うのは、西側から見た視点にすぎないのだと思う。もちろん、AfDの極右思想を見ないで、投票するのはナイーブだ、危険だということもできる。
というのは、選挙という民主主義的な手続きによって、有権者が意識しないままに極右政党を台頭させてしまっているからだ。それは、1930年代にナチスを台頭させてしまったドイツの過去と通じるものがある。
でもそれでは、ドイツ東部市民を理解することにはならない。これは、統一において民主主義もなく、ドイツ西部の好き勝手に操作されてきたドイツ東部市民に蓄積されている恨みであり、復讐なのだから。
(2019年11月08日)
統一への復讐:
(1)東ドイツに対する無知 (2019年10月04日)
(2)東ドイツ市民に対する不公平 (2019年10月11日)
(3)西ドイツ主導の通貨統一 (2019年10月18日)
(4)新しい市場でしかなかった (2019年10月25日)
(5)憲法も人材も西側から (2019年11月01日) |