東西ドイツの統一過程において、東ドイツ市民には不利となるいろいろな不公平があった。そのいくつかを、以下に列挙しておきたい。
居住権が拒否される:
東ドイツ市民には、居住権が保証されなかった。これは、ナチスに没収された土地、不動産が多数あることから、それを元所有者に返還することを優先させたからだ。だがこれは、明らかに国際法違反だった。
この点は、ドイツ政府の担当官も認め、政治的圧力によって国際法違反せざるを得なかったと説明してくれた。
その結果、統一後に「土地所有権を買います」という広告が街のあちこちに出はじめた。これは、土地を返還された旧所有者から土地所有権を買って、不動産を転がして儲けるためのものだった。
こうして、土地、不動産が高騰していった。
学校の成績が信用されない:
東ドイツの学校の成績表を西ドイツで見せても信用されず、正当に評価されなかった。
ぼくの知人は、中学校と高校の英語の成績は最高の1を取っていた。だが、その成績を信用してもらえず、西ドイツにおいて英語の再試験を受けさせられた。
実際に英語を使ってみても、知人の英語力が西ドイツの成績優秀者よりも格段に優れていたことがわかった。
大卒が認められない:
西ドイツにない学科の東ドイツの大卒者は、大卒とは認められなかった。さらに、東ドイツで修士号を取得していても、西ドイツの大学では博士課程に入学する資格を認められなかった。
ぼくの知人はそのため、オランダで博士論文を書き、博士号を取得した。
大学で単位を取り直さなければならなかった:
東ドイツの大学制度では、本科と副科を選択した。だが、西ドイツの大学制度では本科を2科目選択しなければならなかった。
そのため、東ドイツの大学生は統一後、西ドイツの大学制度にしたがって本科をもう一つ取得し直さなければならなかった。
職業人として正当に評価されない:
東ドイツのエンジニアは、統一後職場が西ドイツ企業によって買収されると、エンジニアとしての資格、能力が正当に評価されなくなった。
ぼくの知人は、東ドイツ時代には西ドイツのエンジニアからも正当に評価されていたといった。でも統一後、その能力が評価されず、二流のエンジニアと見られるようになった。
東ドイツの企業が社会生活の母体だったことが無視された:
東ドイツの企業は、労働者とその家族にとって、企業の保養施設を利用したり、企業を通して文化的な催し物に参加したりと、いろいろな形で社会生活の母体だった。
その企業の重要さを認識しないまま、統一後、東ドイツの企業は闇雲に閉鎖された。それによって、東ドイツ市民が社会生活の基盤を失ってしまったともいえる。
東ドイツにおける企業の存在は、同時に女性の就業率を高め、女性が一人でこどもを育てて生きていける基盤にもなっていた。しかし、女性は家庭にいるものという保守的な考えが統一後に西ドイツから入り、女性の就業の重要さが配慮されなくなった。
その結果、東ドイツ企業の閉鎖によってたくさんの女性が失業する。
これは、東ドイツの社会環境を統一後に無視した典型的な例でもある。
これらの事実は、統一後東ドイツ市民のそれまでの経歴と人生、業績が無視され、評価されなくなったことを示している。
このことが、東ドイツ市民の過去を傷つけ、人としての尊厳までも傷つけることになった。その結果、ドイツ全体に東ドイツ市民は二流だという意識が拡大していく。
(2019年10月11日)
統一への復讐:
(1)東ドイツに対する無知 (2019年10月04日)
(3)西ドイツ主導の通貨統一 (2019年10月18日)
(4)新しい市場でしかなかった (2019年10月25日)
(5)憲法も人材も西側から (2019年11月01日)
(6)右傾化するドイツ東部 (2019年11月08日) |