2019年10月14日掲載 − ブラボー!
モンテヴェルディ〈ポッペアの戴冠〉:モラルか、愛か

モンテヴェルディのオペラ〈ポッペアの戴冠〉は、ローマ皇帝ネローネ(暴君ネロ)とローマの武将オットーネの妻ポッペアが愛し合う話だ。ネローネは皇后オッターヴィアを追放し、ポッペアを皇后にしてしまう。


バロックオペラは、ギリシャ神話やローマ神話に出てくる神を題材とした作品が多い。それに対し、〈ポッペアの戴冠〉は神ではなく、人間をテーマとする。


それが、まずこのバロックオペラ作品の斬新なところだ。


モンテヴェルディがこの作品を完成させたのは、1642年。75歳の時だった。モンテヴェルディは翌年他界し、この作品が最後の作品となる。


作品中には、弟子たちが作曲しているところがある。でも、当時の75歳は高齢中の高齢。この歳にしてこの作品を書き上げたのだから、その創作意欲はすごいというしかない。


話は、ローマ皇帝の愛の物語。でも、簡単にいえば「不倫」だ。


この作品のすばらしさは、モンテヴェルディが不倫についてモラルから悪いともいわず、ネローネとポッペアの愛を賞賛しているわけでもないことだ。


モンテヴェルディは、ネローネとポッペアの愛を題材にして、そこに登場する人物の喜怒哀楽を冷静に音楽で表現した。そうして、とても人情味溢れる人間のドラマをつくり上げたのだ。登場人物たちは、ある時は悲しく、ある時は面白おかしく、またある時はとても叙情的に描かれている。


高齢で、人生を知り尽くしたモンテヴェルディ。その成熟さがあったからこそできた至高の作品だ。


ネローネとポッペアは最後に、達成された愛を喜び、二人のデュエットで幕となる。でも、それは二人だけの喜びであり、モンテヴェルディはそれによって愛が絶対だといっているわけではない。


それが、この作品の卓越したところ。350年以上も前の作品にも関わらず、とても現代的な面も兼ね備えている。


だから、〈ポッペアの戴冠〉には解釈上大きな幅が生まれる。当時の社会を題材にしながら、現代社会を描くこともできるのだ。


たとえば本サイトでは、ベルリン国立オペラでの公演について紹介した。そこでは、ネローネをマイケル・ジャクソン風の髪型に皮のズボンをはかせた弱い人間、ポッペアをネローネを利用して有名になることに憧れるしたたかな人間として描かれている。


ぼく自身は、その解釈にはあまり納得できなかった。でも、それも一つの可能性なのだ。


(2019年10月14日号掲載)
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ウィキペディア:ポッペーアの戴冠
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