ベルリン国立オペラで、スペインの作曲家テラデーリャス(1711 - 1751年)のオペラ⟪メローペ⟫のコンサート形式の公演があった。
テラデーリャスといっても、ほとんどの人が知らないと思う。スペインのバロオク音楽作曲家といっても、誰も思い浮かばないのではないだろうか。
テラデーリャスは、イタリアのナポリで作曲を勉強。1736年にナポリで、最初のオペラ作品が上演されている。その後1739年ローマでオペラ作品が上演されたが、最初に成功したオペラ作品が、オペラ・セリーア(正歌劇、シリアスな作品とでもいおうか)の⟪メローペ⟫だった。
⟪メローペ⟫の台本は元々、アポストロ・ゼーノがフランチェスコ・ガスパリーニのために書いたものだった。その後も、いろいろな作曲家がゼーノの台本を元に作曲している。よく知られた作曲家では、ヴィヴァルディが過去の作品から寄せ集めたパスティッチョ(パスティーシュ)として書いた《メッセニアの神託》がある。
オペラ・セリーアの発展では、このアポストロ・ゼーノの存在を忘れてはならない。ゼーノはあまり意味のない無駄な場面を排除し、話の筋に現実味のある一貫性をもたせようとしたバロックオペラの台本の改革者だったといってもいい。そのため、神々も神としては登場させなかった。
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ベルリン国立オペラの⟪メデ(メローぺ)⟫公演のカーテンコールから |
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メローぺというと、ギリシャ神話に出てくる女性の一人だ。ここでは、メッセニアの王クレスフォンテスの妻だったメロぺのこと。クレスフォンテスと同様、ヘラクレスの後裔に当たる権力欲旺盛なポリフォンテがクレスフォンテスと息子二人を殺させ、メローぺと結婚して王位につこうと企てたのが話の発端。
メローぺは10年待てくれといったが、その期限がまもなくくる。メローぺは息子エピディーテが殺されたものと思っていたが、逃げてエルトリア王の娘アルジアと婚約している。
エピディーテが生きていることを知ったポリフォンテは、アルジアを誘惑してエピディーテを誘き寄せ、殺そうとする。しかしエピディーテは母メローぺをポリフォンテから救い、父の仇を討ってハッピーエンドに終わる。
テラデーリャスの音楽は、静と動が目まぐるしく展開す。メロディーもとても豊かだ。レチタティーヴォも鳥が囀って歌っているような感じがする。それでいて、とてもダイナミックな音楽があちこちで奏でられる。
フランチェスコ・コルティ指揮のベルリン古楽アカデミーの演奏は、テンポが潔く、とてもダイナミックだ。しかしレネ・ヤコブスが指揮をする時のような繊細さと抑揚が今ひとつない。
めったに上演されることがない作品だけに、適役のソリストを見つけるのもたいへんだったと思う。しかしメローペ役のエモケ・バラート(ソプラノ)、エピディーテ役のフランチェスカ・ピア・ヴィターレ(ソプラノ)、トラシメデ役のポール-アントワーヌ・ベノス-ディアン(カウンターテノール)など粒が揃っていた。
特にベノス-ディアンは初めて聞いたが、将来性のあるとてもいいカウンターテノールだと思った。エレガントな声がいい。
めったに上演されないテラデーリャスの作品を新発見することができ、コンサート形式だったが、とても価値のある公演だったと思う(2025年2月25日の公演)。
(2025年6月08日) |