ペトレンコ指揮、ベルリン・フィル演奏で、セルゲイ・ラフマニノフのオペラ⟪フランチェスカ・ダ・リミニ⟫を聞いた。ペトレンコは1月によく、あまり知られていないロシアのオペラ作品をコンサート形式で取り上げているが、今回もその一つだった。
「フランチェスカ・ダ・リミニ」は、ダンテの『神曲』地獄篇に出てくる女性。ポレンタ家とマラテスタ家の争いを収束させるため、ポレンタ家のフランチェスカとマラテスタ家のジョヴァンニが結婚させられる。しかしジョヴァンニには足に障害があり、容姿もよくない。それをカモフラージュするため、ジョヴァンニの弟で美男子のパオロがジョヴァンニを装って結婚させられる。
フランチェスカは結婚式の翌朝になってその陰謀を知るが、二人は恋仲となる。ジョヴァンニは二人の関係を疑い、密かに隠れていた。二人が密会して抱擁するのを目撃する。その後すぐに、二人を殺してしまう。
フランチェスカとパオロの非恋は、ダンテの『神曲』をはじめとして、文学や音楽、美術作品のモチーフとなっている。たとえば、チャイコフスキーの幻想曲⟪フランチェスカ・ダ・リミニ⟫やロダンの彫刻作品『接吻』などを挙げることができる。
ラフマニノフというと、ピアノ協奏曲を思い浮かべる人も多いと思う。交響曲も演奏されることが多い。ラフマニノフの音楽には、ロシアの広大な大地が感じられ、民族的な面もある。
そのラフマニノフが中世イタリアの物語を題材にして、オペラ作品を作曲していたとは知らなかった。
ラフマニノフが⟪フランチェスカ・ダ・リミニ⟫を作曲したのは、31歳の時だった。チャイコフスキーに才能を認められたが、チャイコフスキーの死後に作曲した⟪交響曲第一番⟫が大失敗。創作意欲も自信も失い、精神的にもどん底だった。
立ち上がるきっかけになったのは、作家トルストイとの出会いや⟪ピアノ協奏曲第二番⟫の成功などだった。その少し後に作曲されたのが⟪フランチェスカ・ダ・リミニ⟫。指揮者としても評価されてきた時だった。ボリショイ劇場で自らが指揮をして、初演している。
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ベルリン・フィルの⟪フランチェスカ・ダ・リミニ⟫のコンサート形式公演のカーテンコールから。舞台前方に、指揮のペトレンコ(写真一番右)とソリストが並んでいる。 |
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作風からいうと、ピアノ協奏曲や交響曲と違ってロシアの匂いがあまりしない。イタリアオペラの中に、民族的なメロディーが少し混じっている程度にしか感じない。作品の構成も、ヴェルディのオペラに似たところがあり、ヴェルディの作品を十分に勉強していたことがわかる。
ラフマニノフは初期時代に、オペラを数作しか書いていない。しかし⟪フランチェスカ・ダ・リミニ⟫には、オペラの作曲家の作品といってもいいくらいの完成度がある。
その辺を、オペラ指揮者のペトレンコがうまい具合に引き出していた。オペラのことをよく知っている。さすがだ。コンサート演奏をメインとするベルリン・フィルをオペラに合うように感情豊かに演奏させ、コンサート形式であってもオペラの醍醐味を満喫させてくれた。
ベルリン・フィルは、ペトレンコを主席指揮者・音楽監督に迎えてようやく、オペラ作品もオペラハウスのオーケストラに負けず劣らず演奏できるようになってきたかなと感じる。
ソリストの粒も揃い、珍しいオペラ作品を満喫できたのは、とてもラッキーだった。
(2025年3月19日、まさお) |