2025年9月11日掲載 − HOME − ぶらぼー! − オペラ
忘れられた偉大なオペラ作曲家

オペラの作曲家というと、誰が思い浮かぶだろうか。


バロックオペラはあまり知られていないが、モンテヴェルディやヘンデルの名前なら、知っている人がいるかもしれない。


その後の時代に続くのがモーツァルト。モーツァルトなら、知っている人が多いに違いない。ベートヴェンは交響曲ならよく知られているだろうが、オペラとなると⟪フィデリオ⟫くらいで、ちょっと寂しい。


ヴェーバーの⟪魔弾の射手⟫はオペラ史でも大切な作品だが、どれくらいの人が知っているだろうか。同時代になると、ドニゼッティ、ベルリーニ、ロッシーニなども挙げたい。ただ、どの程度知られているかとなると不安だ。


その次に登場するのが、ヴェルディ、ヴァグナー。ビゼーの⟪カルメン⟫なら、知っている人も多いかな。さらに続くプッチーニ、R. シュトラウスなら、知っている人もいると思う。


ここで挙げたオペラ作曲家は12人。そのうち何人が、オペラ通でなくても知られているだろうか。このうち半分のオペラ作曲家を知っている人は何人いるだろうかと思うと、ちょっと不安になる。


ただこの中には、オペラ史においてとても大きな影響を与えながら、ほとんど忘れられた作曲家が入っていない。それは、ユダヤ系ドイツ人作曲家のジャコモ・マイアーべーアだ。


本名ヤコブ・リープマン・マイアー・べーア。リープマン・マイアーは母方の姓、ベーアは父方の姓だ。ヤコブはイタリア語ではジャコモとなる。母方と父方の姓を結合してマイアーべーアとして、ジャコモ・マイアーベーアと名乗るようになった。


1791年ベルリン近郊で生まれ、1864年にパリで亡くなった。


ドイツではヴェーバーなどと一緒に作曲を勉強しているが、オペラ作曲家になりたいと思ったのは、イタリアに渡ってロッシーニの作品を聞いてから。イタリアのベニスにおいて⟪エジプトの十字軍⟫によって大成功をおさめた後、パリに進出した。


19世紀前半にパリで全盛期を迎えるグランド・オペラの代表的な作曲家だ。


ぼくは2000年に、パリ時代に作曲された⟪悪魔のロベール⟫をベルリン国立オペラで聞いてはじめてマイアーベーアのことを知った。


その時、こんなすごいオペラ作曲家が他にもいたのかと驚かされたのを覚えている。作品の構成力とオーケストレーションに格別ぬきんでているのに、びっくりした。その後もベルリン・ドイツオペラにおいて、⟪ユグノー教徒⟫、⟪預言者⟫のマイアーベーアの代表作を聞いている。


マイアーベーアの作品を体験すると、その後のヴェルディやヴァグナーに大きな影響を与えているのがよくわかる。オペラどころか、今のオーケストラ構成は、マイアーベーアの音楽なくしてはないといっても過言ではないと思う。


ただユダヤ人であったことから、ナチスの時代に「退廃芸術」として上演が禁じられ、楽譜なども焼き捨てられた。反ユダヤ主義的なところのあるヴァグナーは、若い時にマイアーベーアから資金的な援助を受けながら、マイアーベーアを厳しく批判。マイアーベーアの影響が大きい⟪リエンツィ⟫をバイトロイトで上演するのを禁じていた。しかし⟪リエンツィ⟫は、来年2026年のバイトロイト音楽祭ではじめて上演される。


ドイツの同時代の詩人ハインリヒ・ハイネの文章にも、マイアーベーアを酷評するものがあちこちに見られる。


マイアーベーアがいろいろ批判されたのは、ユダヤ人だからというだけでは説明できないと思う。単に作曲家としてだけではなく、公演を実現する能力にも長けるなど、多彩な能力に対するひがみもあったのかもしれない。ユダヤ系で裕福な家系に育ち、お金に困ることがなかったのもひがみの的だったのかもしれない。


ぼくがよく参照している日本語のオペラ辞典にも、マイアーベーアの項はない。ヴァグナーについてはたくさんの作品が並んでいるが、⟪リエンツィ⟫については一切記述がない。


マイアーベーアのことが見直されはじめたのは、21世紀に入ってからではないか。ぼくはちょうどその頃に、⟪悪魔のロベール⟫を聞いてマイアーベーアのファンになった。ベルリン国立オペラがマイアーベーアの作品を取り上げたのは、マイアーベーアが前進のベルリン宮廷歌劇場の音楽監督だったことと関係があると思う。その後2010年代には、マイアーベーアの作品の上演があちこちで見られるようになった。


これだけオペラに大きな影響を与えながら、忘れられていた作曲家。マイアーベーアのことは、もっともっとたくさんの人に知ってもらいたい。


(2025年9月11日、まさお)
記事一覧へ
関連記事:
オペラと鐘
ハンブルクの"指輪"、ジークリート
関連サイト:
ジャコモ・マイアーベーア協会のサイト(ドイツ語)
この記事をシェア、ブックマークする
このページのトップへ